海外から製品事故のクレーム・訴状が届いたら|最初の対応で賠償額が変わる。防御義務とクレームマネジメントの基本

海外に出した製品で事故が起き、取引先や消費者、その代理人の弁護士からクレームや訴状が届くことがあります。英語の書面で、聞き慣れない法律用語が並び、返事の期限が書かれている。多くの会社にとって、初めての経験です。

このとき、最初の数日の動き方で、その後の賠償額や訴訟の行方が大きく変わります。善意で書いた一通の返信が、責任を認めた証拠として扱われることもあります。

要点は3つです。

  • 最初にやるのは、返事を書くことではなく、保険会社(代理店)への連絡と記録の保全
  • 責任を認める、支払いを約束する、独自に示談する、の3つはしない
  • 海外PL保険では、保険会社が弁護士を手配して訴訟を進める「防御義務」の考え方がとられることがある。誰が何を決めるかを、事故の前に知っておく

海外PL保険の全体像は海外PL保険とはをご覧ください。

1. 届いた書面の種類を見分ける

海外から届く書面には、大きく分けて次の3つがあります。

① 取引先や販売店からの連絡

「御社の製品で事故が起きた。対応してほしい」という連絡です。取引先が被害者から請求を受け、その負担を求めてくる形もあります。

② 被害者や代理人弁護士からの請求書(Demand Letter)

金額や条件を示して支払いを求める書面です。この段階ではまだ訴訟になっていませんが、返事の仕方次第で訴訟に進むかどうかが変わります。

③ 訴状(Complaint)と呼出状(Summons)

裁判所に訴えが起こされたことを知らせる書面です。答弁の期限が決まっており、期限を過ぎると、相手の言い分どおりの判決が出るおそれがあります。米国などでは、受け取ってから数週間で期限を迎えることがあります。

どの書面であっても、受け取った日と受け取り方(郵送・メール・手渡し)を記録しておきます。期限の起算に関わるためです。

2. 最初の3日でやること

保険会社(代理店)にすぐ知らせる

海外PL保険の契約では、事故やクレームを知ったら速やかに保険会社へ知らせることが求められます。知らせるのが遅れると、保険会社が対応できる幅が狭まり、場合によっては補償に影響することがあります。

「まだ請求額が決まっていない」「本当に自社の製品が原因か分からない」という段階でも、知らせて構いません。原因がはっきりする前に知らせることに意味があります。

書面と記録を保全する

  • 届いた書面(封筒やメールの送信記録を含む)
  • 事故を起こしたとされる製品の型番・ロット・製造日・出荷日
  • その製品の出荷先、販売経路、取扱説明書・警告表示の版
  • 検査記録、品質管理の記録

製品の現物がある場合は、廃棄せずに保管します。原因の調査で必要になります。社内のメールやチャットでの、原因についての推測のやり取りにも注意が要ります。訴訟になると、社内の記録の提出を求められることがあるためです。

社内の窓口を一つにする

営業担当、品質保証、経営者がそれぞれ相手と連絡を取ると、説明が食い違います。相手とのやり取りの窓口を一つに決め、保険会社や代理店と相談しながら返事をします。

3. やってはいけない3つのこと

① 責任を認める

「当社の製品の欠陥でした」「ご迷惑をおかけし申し訳ありません、当社の責任です」といった表現は、責任を認めた証拠として扱われることがあります。お見舞いの気持ちを伝えることと、責任を認めることは分けて考えます。

② 支払いを約束する

「治療費はお支払いします」「損害は全額補償します」と約束すると、保険会社の同意なしに支払いを約束したことになり、その分が補償されないことがあります。

③ 独自に示談する

保険会社に知らせないまま相手と示談すると、その示談の内容は保険で出ないことがあります。取引先との関係を考えて早く収めたい場面でも、示談の前に必ず保険会社の同意を取ります。

4. 防御義務(Duty to Defend)とは

保険会社が弁護士を手配し、訴訟を進める

海外の賠償責任保険では、保険会社が被保険者のために弁護士を手配し、訴訟の対応を主導する「防御義務(Duty to Defend)」の考え方がとられることがあります。

防御義務がある場合、被保険者が自分で弁護士を探して費用を立て替える形ではなく、保険会社が現地の弁護士を選び、費用を負担して訴訟を進めます。訴えの中に補償の対象になりうる請求が含まれていれば、保険会社は防御を引き受けるのが基本です。

日本の賠償責任保険は、被保険者が弁護士を選び、保険会社が費用を支払う形が多く、考え方が異なります。詳しくは防御義務(Duty to Defend)とは|英文CGLと日本の賠償責任保険の違いで解説しています。

確認しておきたい4つの点

  • 弁護士は誰が選ぶか。自社が希望する弁護士を使えるか
  • 弁護士費用(争訟費用)が、支払限度額の外で出るか内で出るか。内側から出る場合、訴訟が長引くほど賠償金に使える枠が減る
  • 示談の判断を誰がするか。保険会社が示談を勧め、自社が応じたくない場合にどうなるか
  • 保険会社が「補償の対象かどうかを留保したうえで防御を引き受ける」と通知してくることがある。その場合に何が起きるか

これらは証券と約款の文言で決まります。事故が起きてから確認するのでは遅いため、契約のときに確かめておきます。

5. 取引先から「防御してほしい」と求められたら

海外の販売店や取引先が被害者から訴えられ、「製品を作ったのは御社なので、御社の側で防御を引き受けてほしい」「費用を負担してほしい」と求めてくることがあります。

このとき、自社の保険でどこまで対応できるかは、次の点で変わります。

  • 取引先が、自社の保険の追加被保険者(Additional Insured)に入っているか
  • 取引先との契約書に、相手の損害まで負担する補償条項(Hold Harmless・Indemnity)があるか
  • 契約書に求償権の放棄(Waiver of Subrogation)や優先支払い(Primary and Non-Contributory)の条件があるか

追加被保険者に入っていれば、取引先は自社の保険を直接使える場合があります。求償権の放棄や優先支払いは、事故のあとに「どちらの保険から先に払うか」「保険会社が取引先に請求できるか」に関わる条件で、自社の保険の設定と合っていないと、取引先との間で争いになります。

契約書の補償条項で引き受けた責任は、海外PL保険が備える法律上の賠償責任とは別のものとして扱われ、通常の補償の範囲を超えることがあります。詳しくは契約で引き受ける賠償責任(Contractual Liability)の保険相談と、海外取引の契約書にある補償条項(Hold Harmless)と海外PL保険をご覧ください。

6. クレームマネジメントとは

クレームマネジメントは、事故の知らせを受けてから解決までの間、関係者の間を整理し、対応を前に進めることです。海外の製品事故では、関係者が多くなります。

  • 自社(製造者)の営業・品質保証・経営者
  • 取引先、販売店、商社
  • 保険会社と、その事故担当
  • 保険会社が手配する現地の弁護士
  • 被害者と、その代理人弁護士

それぞれが別の言語、別の時差、別の利害で動きます。誰に何をいつまでに出すか、どの書面を誰が確認するか、取引先にどこまで説明するかを決めて、対応を一本の流れにまとめる役割が要ります。

ここは決まった型がなく、事故の内容、製品、取引の関係、保険の条件によって進め方が変わるところです。保険会社とのやり取りに慣れた代理店がつくかどうかで、解決までの時間と自社の負担が大きく変わります。

7. 事故の前にやっておくこと

  • 証券に、事故を起こしうる製品がすべて対象として書かれているか確認する(海外PL保険は「書かれた製品」だけを守る)
  • 弁護士費用が限度額の外で出るか内で出るかを確認する
  • 取引先が追加被保険者に入っているか、契約書に補償条項・求償権の放棄・優先支払いの条件があるかを確認し、保険の設定と合わせておく
  • 事故やクレームを知ったときの社内の連絡先と、保険会社・代理店への連絡先を決めておく
  • 製品の型番・ロット・出荷先を追える記録を残しておく

よくあるご質問

まだ請求額が分からない段階でも、保険会社に知らせるべきですか

知らせてください。金額や原因がはっきりする前に知らせることで、保険会社が早い段階から対応できます。

取引先との関係があるので、こちらで先にお見舞いや支払いをしたいのですが

支払いや示談の約束は、保険会社の同意を取ってからにしてください。同意なしに約束した分は、保険で出ないことがあります。お見舞いの気持ちを伝える場合も、責任を認める表現は避けます。

訴状が英語で届きました。まず何をすればよいですか

受け取った日と受け取り方を記録し、書面をそのまま保険会社(代理店)に送ってください。答弁の期限があるため、翻訳を待たずに知らせます。

弁護士は自分で選べますか

契約によります。保険会社が弁護士を手配する形では、自社の希望が通るかどうかは約款と保険会社との協議で決まります。

海外PL保険に入っていない時期に出荷した製品で訴えられました

加入前に出荷した製品は、契約時に申告して対象に含めていなければ、補償されないことがあります。まず証券の内容を確認します。

お問い合わせ

海外から製品事故のクレームや訴状が届いた、取引先から防御を求められている、という場合は、書面をそのままお送りください。事故の前に、いまの保険で事故のときに何が起きるかを確かめておきたい、というご相談もお受けしています。なお、当センターは保険代理店のため、相手方との示談交渉を代わりに行うことはできません。

海外PL保険のお手配は海外PL保険|輸出製品の賠償責任に備える見積・加入と取引先への保険証明のページで承っています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。法的な判断が必要な場合は弁護士にご相談ください。実際の補償内容は、保険会社の約款および個別の契約条件によります。

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  • このブログの記事は「若宮大志」が書きました。

    若宮大志

    平素、ご契約者様には弊社にて保険契約を賜り、誠にありがとうございます。また取引業者様におかれましても、弊社の業務運営において日頃多大なご支援をいただき感謝を申し上げます。

     さて昨今の大きな問題として、自然災害の増加、資源・物価高による保険金の増大、保険金の不正請求等にもより、お客様にお支払いいただく保険料の上昇が顕著となった1年間でした。また損保大手4社による企業カルテル問題では、大きなところでは政策保有株の原則禁止と表明されたり、小さな部分では他社証券の取得や満期更改情報の取得を制限すると表明されたりしましたが、実質的に保険業界の企業体質はなかなか変わらないことが危惧されます。また保険会社の営業職員や保険代理店社員がお客様の保険料を不正に流用したり、店主が顧客と結託し、保険金詐欺に加担していた事件も明るみとなりました。

     国も企業も、身を正すことができない大人たちが跋扈することによって、業界が成長しないばかりか市場における競争力が失われ続けていると感じます。それは国内のみならまだしも、グローバルで相対的に力を失っているのが一番大きな弊害だと感じるものです。

     私たち株式会社BEAMリスクマネージは、政府による指導や保険会社の改革を待つのではなく、高いレベルのコンプライアンス基準による業務遂行を通じ、日本を、世界をリードする最先端の保険コンサルティング会社を目指してまいります。引き続きのご指導、ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。


    2024年12月吉日
    株式会社BEAMリスクマネージ
    代表取締役 若宮 大志

     

    プロフィール

    若宮 大志(わかみや たいし)
    株式会社BEAMリスクマネージ 代表取締役
    海外ビジネス保険センター(GBIC東京)責任者

    外資系保険会社勤務10年超を経て独立し、海外ビジネス保険を専門に扱っています。

    AIG損害保険株式会社に在籍したのち、2020年5月に株式会社BEAMリスクマネージを設立。同年8月にAIG損害保険を退職し、独立しました。

    国内の法人保険を手がける中で、海外に事業を広げようとする中小企業が「英文の証券が用意できない」「主催者から届いた英文の要求が読み解けない」という理由で、商談や出展を止めてしまう場面に何度も立ち会いました。保険が事業の足かせになっている——この状況を変えたいと考え、海外ビジネス保険に専門特化しています。

    現在も、AIG損害保険をはじめChubb損害保険、スター保険会社など、海外リスクの引受に強い保険会社を取り扱っています。

    専門領域

    • 海外展示会保険(主催者指定要件への対応、英文付保証明書の発行)
    • 英文CGL・PL保険(海外での賠償責任)
    • 外航貨物海上保険(輸出入貨物の輸送中・保管中)
    • 貿易保険
    • 取引信用保険(海外売掛債権の未回収リスク)
    • 海外リコール保険
    • 海外拠点を含むサイバー保険
    • グローバル保険プログラム(海外子会社を含む保険の一元管理)

    取扱保険会社:AIG損害保険、Chubb損害保険、スター保険会社

    保有資格

    • 損害保険トータルプランナー(日本損害保険協会)
    • 貿易実務検定

    対応実績

    これまでに、次のような先からご相談をいただいています。

    • 東証プライム上場企業
    • 大手グループの子会社
    • 大学・国立研究機関・学会
    • 海外へ販路を広げる中小企業・メーカー

    2026年10月、ジェトロ(日本貿易振興機構)Webサイトの「JS LINKS」に掲載されました。

    海外展示会の保険手配では、主催者が求める補償項目・補償限度額・追加被保険者(Additional Insured)の記載要件を確認したうえで保険を設計し、英文付保証明書(COI)を発行しています。

    英語対応

    英文証券および英文付保証明書(COI)の発行に対応しています。

    主催者から届く英文の出展要項を読み解き、「Commercial General Liability USD 1,000,000」「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」といった要求条件が日本のどの保険に対応するのかを確認したうえで手配します。

    出展要項をそのままお送りいただければ、こちらで内容を確認します。

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