海外PL保険とは|補償範囲・国内PLの海外特約との違い・輸出形態別の選び方

海外PL保険(海外生産物賠償責任保険)とは、日本から輸出した製品や海外で販売・使用される製品の欠陥によって、海外で他人にケガをさせたり物を壊したりした場合の損害賠償責任と、海外での訴訟対応費用(弁護士費用など)を補償する保険です。国内のPL保険(生産物賠償責任保険)は原則として日本国内で起きた事故が対象で、海外の事故は契約内容によっては補償されません。

要点は3つです。

  • 国内PL保険だけでは、海外の製品事故は出ないことがある
  • 輸出の形(直接輸出・商社経由・部品供給・海外EC)で必要な補償が変わる
  • 選択肢は「国内PLの海外特約」「海外PL保険」「英文CGL」の3つ。取引先の要求条件で決まる
  国内PLの海外特約 海外PL保険 英文CGL
補償の対象 国内契約に海外事故を追加 海外で販売・使用される製品の事故(賠償+訴訟費用) 製品事故を含む海外の事業活動全般の賠償
向いている企業 輸出が少量・特定国に限られる 継続的に輸出がある、取引先から保険条件を指定されている 海外展示会・現地業務など製品以外の活動もある
注意点 対象地域・訴訟対応の範囲が限られることがある 英文証券・COIへの対応、限度額と追加被保険者の条件 補償が広い分、設計に整理が要る

製品を海外に販売・輸出している企業にとって、製造物責任(PL)は避けて通れないリスクです。
 
「日本では問題がなかったから大丈夫」と考えていると、海外市場では思わぬ落とし穴にはまることになります。
消費者保護の意識が高く、訴訟文化が根付いた国では、表示のミスや小さな不具合でも大きな責任を問われかねません。
 
国内のPL保険に加入している企業様から、当社には次のようなご相談がよくあります。
 
「いま入っている国内PL保険は、海外で事故が起きた場合も補償されるのか」
「国内PLの海外特約で足りるのか、海外PL保険を別に用意する必要があるのか」
「英文CGLまで必要なのか」
 
この記事では、海外PL保険の基本から、輸出の形に応じた補償の考え方、契約前に確認しておきたい点までを整理します。

1. 海外で製品事故が起きたとき、国内のPL保険では出ないことがあります

 

そもそもPL保険(製造物責任保険)とは


PL保険(製造物責任保険)とは、製品が原因で起きた対人・対物事故により第三者にケガや物的損害を与え、企業が法律上の損害賠償責任を負ったときに、その賠償金や対応費用を補償する保険です。
 
補償の対象になるのは、主に次のような費用です。
 
・損害賠償金(治療費・修理費・慰謝料など)
・訴訟に対応するための弁護士費用・裁判費用
・被害の拡大を防ぐための応急措置の費用

 

海外の事故は、契約内容によっては対象外になります



国内のPL保険でも、契約内容によっては海外での事故が補償される場合があります。ただし、補償される地域、対象になる製品、事故の条件は契約ごとに異なります。「輸出している」というだけで海外の事故が自動的に対象になるわけではありません。
 
海外へ製品を出している場合は、いま加入しているPL保険が海外の事故にどこまで対応しているかを、証券の記載で確認しておくことが大切です。
 
なお、製品ではなく、コンサルティングや開発など「仕事の過誤」が原因の賠償は、PL保険では出ません。こちらは別の保険の領域です。
詳しくは「業務過誤賠償責任保険(E&O)|アプリ開発・AIコンサルの海外賠償リスク」をご覧ください。


 

2. 輸出の形によって、必要な補償は変わります


同じ「海外に製品が出ている」でも、どの形で出ているかによって、誰が・どこで・何を請求されるかが変わります。当社では、最初に輸出の形をお伺いしています。

 

海外の顧客へ直接輸出・販売する場合


 
自社が製造者であると同時に輸出者でもあるため、事故が起きれば海外の被害者や取引先から直接請求を受ける立場になります。
 
この形では、輸出先の国(州)で賠償責任を負うことを前提に、その国での訴訟対応まで含めた補償が必要になります。海外の取引先との売買契約に「一定額以上の賠償責任保険への加入」「取引先を追加被保険者に含める」といった条件が書かれていることも多く、契約書の保険条項をあわせて確認します。
 
 

商社などを通して海外へ輸出する場合


 
商社が輸出者になる場合でも、製品を作った責任(製造者責任)は自社に残ります。海外で事故が起きたときに、被害者から直接訴えられることも、賠償を負担した商社から求償を受けることもあります。
 
「輸出の手続きは商社がやっているから、保険も商社の側で手当てされている」とは限りません。商社が加入している保険は商社を守るためのものです。自社がどこまで補償されるのかは、商社との契約と自社の保険の両方で確認が必要です。

 

海外で販売される製品の部品を輸出している場合


 
自社は国内の完成品メーカーに部品を納めているだけでも、その完成品が海外で販売されていれば、部品の欠陥が原因の事故について完成品メーカーから求償を受けることがあります。
 
この形では「自社は海外に輸出していない」という認識のまま、海外のPLリスクを持っているケースが少なくありません。完成品がどの国で使われているかが、必要な補償の地域を決めます。納入先に、最終製品の仕向地を確認しておくことをおすすめします。
 

海外のECサイト(Amazon等)で直接販売する場合

商社も現地代理店も挟まず、日本から海外の消費者へ直接届く形です。販売先の国が複数にまたがり、購入者が誰かも事前に分からないため、対象地域を広く取る必要があります。米国Amazonのように、出品者に一定額以上の賠償責任保険への加入と証明書(COI)の提出を求めるプラットフォームもあり、「入っていないと出品を続けられない」という形でご相談をいただくことが増えています。

当センターでご相談の多い製品

これまでに海外PL保険をお手伝いした製品と、ご相談の入口には次のようなものがあります。

  • 機械部品(輸出先:東南アジア):国内の保険を見直す延長で「海外分はどうなっているか」となり、完成品メーカーからの求償リスクが手当てされていないことに気づくケースが多い製品です。
  • サーフボード(北米):使用中のケガが賠償請求につながりやすく、訴訟対応を前提に設計します。ネット検索で当センターを見つけてご相談いただく形が多い製品です。
  • お酒(ヨーロッパ・北米):飲食物は健康被害の申し立てが賠償請求の入口になります。輸出先の表示規制と合わせて確認する項目が多い分野です。
  • 鍵製品(北米・ヨーロッパ):製品の不具合が盗難や侵入の被害につながると、製品代金とは桁の違う請求になりえます。
  • 医薬部外品(東南アジア):輸出量が増えているのに保険が無対策のまま、というご相談が目立ちます。輸出先の国で「医薬部外品」という区分が通じないことも踏まえて設計します。
  • 海外ECサイト(Amazon等)での販売(各国):販売先が多国にまたがるため対象地域を広く取ります。プラットフォームの出品条件として保険証明を求められる形が増えています。

製品の種類だけで保険料や引受可否は決まりません。輸出先の国、年間の売上、過去の事故歴、取引先から求められている条件を合わせて見積りします。

3. 国内PLの海外特約・海外PL保険・英文CGL、何が違う?


国内のPL保険だけでは補償が足りない場合、主に次の選択肢があります。
 
 

国内PL保険の海外特約


 
いま加入している国内のPL保険に、海外での事故を補償する特約を付ける方法です。輸出先や販売の形によっては、これで対応できる場合があります。ただし、補償される地域や訴訟対応の範囲は限られることがあり、輸出先の国で訴訟になった場合の対応まで含まれているかは、個別に確認が要ります。

 

海外PL保険


 
海外で販売・使用される製品によって発生する事故に備える保険です。海外の取引先から指定された保険条件への対応、海外での訴訟・弁護士対応を前提に設計されています。輸出の売上が継続してある企業、取引先から保険の証明を求められている企業は、まずこちらを検討します。
 
 

英文CGL


 
製品事故だけでなく、海外での事業活動に伴う賠償責任を幅広くカバーする保険です。PL保険が「製品の欠陥による賠償」に備えるのに対し、英文CGLは海外展示会への出展、現地での業務遂行、施設の利用など、事業活動全体に関わる賠償リスクを対象にします。
 
 

一律には決められません


 
「海外に輸出しているから海外PL保険」と一律に決められるものではありません。
自社がどの形で海外に製品を出しているのか、どの国で使われるのか、取引先からどのような保険条件を求められているのかを整理したうえで、必要な補償を決めていきます。
 

英文CGLとPL保険の違い、国内PLの海外特約で対応できるケースについては、次の記事で詳しく解説しています。
「最強の海外ビジネス保険「英文CGL」完全ガイド|PL保険との違いと選び方を解説」

 

4. 補償内容で確認すべきポイント


海外PL保険を選ぶ際は、保険料だけでなく、実際に海外で事故が起きたときにどのような対応ができるのかを確認しておくことが重要です。
 
 

① 支払限度額


 
必要な補償額は、輸出先の国、製品の種類、販売規模、取引先から求められている条件を踏まえて決めます。海外の取引先や展示会の主催者から、一定額以上(たとえば1事故あたり数百万ドル)の限度額を指定されることもあります。
 
また、支払限度額だけを見るのではなく、次の防御費用が限度額の内側から出るのか外側から出るのかで、実際に使える補償の大きさは変わります。
 
 

② 防御費用の扱い


 
防御費用(争訟費用)とは、PL事故で損害賠償を請求されたときに、訴訟に対応するためにかかる弁護士費用や裁判費用のことです。
 
海外PL保険では、この費用が賠償金の支払限度額とは別枠で支払われる「外枠払い」なのか、限度額の中から支払われる「内枠払い」なのかを確認します。
 
内枠払いの場合、訴訟が長引いて弁護士費用が増えるほど、賠償金に充てられる枠が減っていきます。審理が長期化しやすい国では、この差が最終的な自己負担額を大きく変えます。どちらの設定かは証券の文言で決まりますので、契約前に確認してください。
 
また、海外の賠償責任保険では、保険会社が被保険者のために弁護士を手配し、訴訟対応を主導する「Duty to Defend(防御義務)」の考え方が採用されることがあります。輸出先の国に拠点を持つなど、現地での対応体制が整っている保険会社かどうか、誰が現地の弁護士を選ぶのか、保険会社がどのように訴訟対応を進めるのかも、契約前に確認しておきたい点です。
 
防御義務について詳しくは「防御義務についてご存じですか?(海外ビジネス保険)」をご覧ください。
 
 

③ 対象地域・対象製品


 
どの国・地域で発生した事故が補償されるのか、どの製品が対象になるのかを確認します。輸出先だけでなく、製品が最終的に使用される国や、海外で販売される製品に組み込まれる部品についても、対象に含まれているかを事前に確認しておくことが大切です。
 
 

④ 保険期間と事故の考え方


 
海外PL保険では「いつ起きた事故を、いつまでに請求されれば補償するか」の考え方が2通りあり、どちらの方式かで補償の範囲が変わります。
 
・事故発生ベース(オカレンス方式)

保険期間中に事故が発生していれば、損害賠償請求や訴訟が保険期間の終了後になっても補償の対象になります。製品事故は、販売から時間が経って表面化することがあるため、この方式のほうが安心感はありますが、保険料は高めになる傾向があります。
 
・損害賠償請求ベース(クレームズメイド方式)

保険期間中に損害賠償請求を受けた事故を対象にします。多くの場合、遡及日(一般には初年度の保険始期日)が設定され、遡及日より前に起きた事故は対象外です。また、保険を解約・終了したあとに請求を受けた事故は、原則として対象になりません。この方式で契約している場合、保険会社を切り替えるときや契約を終えるときに、空白期間が生じないよう注意が必要です。
 
もう一つ確認しておきたいのが、保険に加入する前にすでに輸出している製品の扱いです。加入前に海外に出た製品でも、契約時に対象として申告し、保険会社が承認すれば補償の対象に含められる場合があります。過去に出荷した製品が海外市場に残っている企業は、この点をあわせて確認してください。
 
 

⑤ 懲罰的賠償責任は補償できるか


 
海外では、実際に発生した損害の補償だけでなく、加害者への制裁を目的とした「懲罰的損害賠償(Punitive Damages)」が問題になることがあります。
 
特にアメリカでは、企業に重過失や悪意が認められた場合などに、実際の損害額とは別に懲罰的損害賠償が命じられることがあります。一般市民が評決に加わる陪審員制度のもとでは、金額が実損を大きく上回ることもあります。
 
ただし、懲罰的損害賠償を保険で補償できるかどうかは、州や保険契約によって扱いが異なります。対象となる国・州での扱いと、保険での補償の可否・条件を、個別に確認しておく必要があります。

 

5. 保険料はどう決まるか。見積りに必要な情報

 

保険料を左右する主な要素


海外PL保険の保険料は、主に次の要素で決まります。
 
・輸出売上高(国・地域別)
・輸出先の国・地域(とくに北米が含まれるかどうかで大きく変わります)
・製品の種類と用途(食品、医療機器、子ども向け製品、機械など、事故が起きたときの被害の大きさで見られます)
・支払限度額と免責金額
・保険期間と事故の考え方(④の方式)
・過去の事故歴・リコール歴
・品質管理の体制、英文の取扱説明書や警告表示の整備状況
 
同じ製品・同じ売上でも、輸出先に北米が含まれるかどうかで保険料は大きく変わります。まず「どの国に、いくら出ているか」を整理することが、見積りの出発点になります。
 
 

見積りに必要な情報


 
お見積りにあたっては、次の情報をお伺いしています。
 
・会社概要と、製品のカタログや仕様がわかる資料
・輸出先の国別売上高(直近の実績と、今後1年の見込み)
・輸出の形(直接輸出/商社経由/部品として組み込まれる)
・海外の取引先や主催者から求められている保険条件(要求文がある場合はその原文)
・現在加入している国内PL保険の証券の写し
・過去の事故歴、リコール歴
 
取引先から届いた保険の要求文は、日本語に訳したり関係のありそうな部分だけを抜き出したりせず、原文のままお送りください。
抜き出す段階で判断が必要になるため、原文のほうが正確に確認できます。
 
 

費用について


 
当社にお支払いいただくのは保険料のみです。ご相談、お見積り、補償内容の確認について、当社の手数料はいただいておりません。
 

6. 海外の取引先から保険の証明を求められたら


海外の取引先から「保険に加入していることを証明してください」と依頼されることがあります。このときに使うのが、英文付保証明書(COI:Certificate of Insurance)です。
 
要求文には、保険の種類や支払限度額のほか、取引先を追加被保険者(Additional Insured)に含めること、取引先に対する求償権の放棄(Waiver of Subrogation)、自社の保険を第一次とすること(Primary and Non-Contributory)といった条件が書かれていることがあります。これらは日本語の保険証券を英訳するだけでは満たせないことがあり、契約の内容そのものを条件に合わせる必要が出てきます。
 
要求文が届いたら、まず原文のまま保険担当者に確認してもらうことをおすすめします。
 
英文付保証明書(COI)について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
「英文付保証明書(COI)|要求文に書かれている条件を実例で解説」
 

7. よくある質問


Q. 国内のPL保険に入っています。海外の分は追加で足りますか。

A. 契約内容によります。
海外特約で対応できる場合もあれば、輸出先の国での訴訟対応まで考えると海外PL保険を別に手配したほうがよい場合もあります。現在の証券の写しと輸出先をお知らせいただければ、どちらが合うかを整理してお伝えします。
 

Q. 輸出の金額は小さいのですが、それでも必要ですか。

A. 賠償額は輸出額の大小と連動しません。
少量の輸出でも、事故が起きれば輸出先の国の基準で請求を受けます。取引先から保険の証明を求められている場合は、金額にかかわらず対応が必要です。
 

Q. 商社経由なので、自社は輸出していません。対象になりますか。

A. 製造者としての責任は残ります。
商社から求償を受けることもあるため、自社の側でも補償を検討する対象です(2章をご覧ください)。

 
Q. 取引先から「1事故あたり◯百万ドル以上」と指定されました。

A. 要求文の原文をお送りください。
限度額のほかに追加被保険者などの条件が書かれていることが多いため、条件全体を確認したうえで、それを満たす契約の形をご提案します。
 

Q. リコールの費用も出ますか。

A. 製品の回収にかかる費用は、PL保険とは別の保険(リコール保険)の領域です。必要な場合はあわせてご相談ください。
 

Q. 以前に輸出した製品も対象になりますか。

A. 加入前に海外に出た製品でも、契約時に申告し保険会社が承認すれば対象に含められる場合があります。過去の出荷分がある場合は、お見積りの際にお知らせください。

 

8. お問い合わせ


海外のPLリスクへの備えは、「自社の輸出の形に合った補償になっているか」という視点で選ぶことが重要です。
 
・海外に輸出しているが、どのような保険が必要かわからない
・海外の取引先から保険条件を提示されている
・現在の国内PL保険で海外の事故まで対応できるのか確認したい
 
お困りのことがありましたら、当社までお問い合わせください。
 

▼海外ビジネス保険センター(GBIC東京)
TEL:03-4218-6981(平日 9:30〜18:00)
Email:gbic@beam-rm.jp
 

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。実際の補償内容は、保険会社の約款および個別の契約条件によります。
 

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