業務過誤賠償責任保険(E&O)|海外で仕事の過誤を問われたら
海外に製品を出している。生産物賠償責任保険(PL保険)にも加入している。
それなのに、取引先から損害の賠償を求められた。
このとき問題になっているのが、製品そのものの欠陥ではなく、その前後で自社が行った「仕事」のほうであることがあります。海外の契約書に、CGL(賠償責任保険)とは別に保険の付保義務が書かれていて、何を用意すればよいのか分からない、という形でご相談をいただくこともあります。
この記事では、製造業とIT企業の2つの場面から、何が起きているのかをご説明します。
1. 製品には保険をかけているのに、賠償を求められることがあります
海外向けに製品を出している企業の多くは、製品が原因で第三者にケガをさせたり、物を壊したりした場合に備えて保険に加入しています。
ところが実際の請求は、その形をとらないことがあります。
・据え付けた設備が、仕様どおりに動かなかった
・技術指導の内容に誤りがあり、相手方の生産が止まった
・検査で見落としがあり、後工程でやり直しが発生した
・納品したシステムに不具合があり、相手方の業務が停止した
これらに共通しているのは、壊れたのは「モノ」ではなく、相手方の事業だという点です。ケガ人も出ていなければ、物が壊れてもいない。それでも相手方には損害が出ていて、その回復を求められています。
製品にかけた保険が想定しているのは、多くの場合、製品の欠陥に起因する対人・対物の損害です。上のような損害は、その想定の外にあります。
2. その事故は、製品の欠陥ではなく「仕事」の過誤かもしれません
賠償の請求を受けたとき、まず切り分けたいのは「何が原因とされているか」です。
| 原因とされているもの | 生じている損害 | 主に対応する保険の領域 |
| 引き渡した製品そのものの欠陥 | 第三者のケガ、他人の財物の損壊 | 生産物賠償責任(PL)の領域 |
| 自社が行った役務の過誤や不履行 | 相手方に生じた経済的な損失 | 業務過誤賠償責任(E&O)の領域 |
ここでいう役務とは、設計、助言、技術指導、監督、据付、試運転、検査、開発、運用などを指します。英語では Professional Liability、Errors and Omissions(E&O)、IT分野では Technology E&O と呼ばれます。
製造業では、この2つが1つの案件の中に同居していることがよくあります。製品を売っているつもりでも、実際には設計や据付や技術指導がセットになっている。そこでの過誤は、製品の欠陥とは別の話として扱われます。
※ここではPL保険そのものの詳しい説明はしていません。切り分けの目安として、原因と損害の形をご覧ください。
3. 製造業の場合|設計・技術指導・据付・試運転・検査
製造業で「仕事の過誤」が問題になりやすいのは、製品を引き渡す前後の工程です。
設計・仕様の検討
相手方の要求に合わせて仕様を詰める段階です。仕様の判断に誤りがあれば、製造された物に欠陥がなくても、目的を果たせません。
据付・試運転
現地に人を送り、設置し、立ち上げるまでを請け負う場合です。据付の不備で設備が動かなければ、相手方の生産計画に直接影響します。
技術指導・監督
現地の作業者への指導や、工事の監督を行う場合です。指導内容の誤りが、そのまま相手方の損失につながります。
検査・試験
出荷前後の検査を請け負う場合です。見落としがあれば、後工程での手戻りや回収の費用が発生します。
いずれも、輸出契約書やサービス契約書の中に、製品の売買とは別の条項として書かれていることが多い部分です。契約書に役務の記載があるかどうかが、最初の確認点になります。
4. IT企業の場合|開発・運用・データ
IT企業の場合は、そもそも引き渡す「モノ」がありません。提供しているものが最初から役務であるため、賠償の話が保険と結びつきにくいという事情があります。
受託開発
納品したシステムに不具合があり、相手方の業務が止まった。仕様の解釈違いで、想定した機能が実現していなかった。納期に間に合わなかった。
運用・保守の受託
運用を任されているシステムが停止し、相手方の売上が失われた。復旧に想定以上の時間がかかった。
SaaS・クラウドサービスの提供
サービスの停止や不具合により、利用している企業の業務に影響が出た。
データの取り扱い
預かっていたデータを失った、あるいは復元できなくなった。
海外の企業と取引する場合、これらについて契約書に責任と保険の条項が置かれていることがあります。日本国内の取引では求められなかったものが、海外の取引で初めて求められる、という順番になりやすい分野です。
5. 海外の契約書に付保義務が書かれていたら
海外の取引先との契約書には、保険の付保義務(Insurance Requirements)が条項として置かれていることがあります。
そこに書かれる名称は、次のようなものです。
・Professional Liability Insurance
・Errors and Omissions Insurance(E&O)
・Technology Errors and Omissions Insurance
注意していただきたいのは、これらがCGL(Commercial General Liability)と並べて書かれていることがあるという点です。並記されている場合、CGLに加入しているだけでは条項を満たしません。それぞれ別の保険として求められています。
また、限度額、保険期間、証明書の提出方法、追加被保険者の指定などが、あわせて指定されていることもあります。CGLの場合と同じく、加入していること自体ではなく、書かれた条件どおりに入っていることを書類で示せるかどうかが問われます。
CGLについては英文CGL保険|補償の範囲と求められる条件で、証明書については英文付保証明書(COI)発行でご説明しています。
6. よくあるご質問
Q. PL保険に入っていれば、E&Oは要りませんか
A. 対象としている領域が異なります。製品の欠陥に起因する対人・対物の損害と、役務の過誤に起因する相手方の経済的な損失は、別のものとして扱われます。役務を提供している場合は、別に検討していただく必要があります。
Q. 契約書に Professional Liability と書かれています。CGLで代用できますか
A. できないことがほとんどです。とくにCGLと並記されている場合は、それぞれ別の保険として求められています。CGLは対人・対物の賠償責任が中心で、役務の過誤による経済的損失は対象としていないのが一般的です。
Q. 製造業ですが、当社は製品を売っているだけです。関係ありますか
A. 契約書をご確認ください。据付、試運転、技術指導、検査といった役務が契約に含まれていることがあります。売買と役務が1本の契約書にまとまっていると、意識されないまま役務を引き受けている状態になりがちです。
Q. すでに納品したものについても対象になりますか
A. 業務過誤賠償責任保険は、損害賠償の請求がなされた時点を基準として設計されていることが一般的です。過去に行った業務まで遡って対象とするかどうかは、契約ごとの条件によります。ご相談の際にご確認ください。
Q. 保険料はどのくらいになりますか
A. 業種、提供している役務の内容、対象となる国、限度額、取引の規模によって変わります。一律の目安をお示しすることが難しいため、条件をお知らせいただいたうえでご案内しています。
7. ご相談の際にお知らせいただきたいこと
業務過誤賠償責任(E&O)は、業種と業務の内容によって、引受の可否も条件も変わります。まずは次の点をお知らせください。
・業種と、提供している役務の具体的な内容
・対象となる国や地域
・取引の規模(1件あたりの契約金額の目安)
・契約書に保険の条項がある場合は、その条項
契約書の条項は、日本語に訳したり、関係がありそうな部分だけを抜き出したりせず、そのままお送りください。抜き出す段階で判断が必要になってしまうためです。PDFでもスクリーンショットでも構いません。
内容を確認のうえ、どの保険で対応できるか、あるいは対応が難しいかを含めてご案内します。お引き受けできるかどうかは、業務の内容と契約条件を確認したうえでのご案内となります。
当社は海外の賠償責任保険を主に取り扱っており、2024年からは海外案件で年間100件を超えるご相談をいただいています。
8. お問い合わせ
海外ビジネス保険センター(GBIC東京)
Email:gbic@beam-rm.jp
お急ぎの場合は、お電話でもご相談いただけます。
9. 関連ページ
・英文CGL保険|補償の範囲と求められる条件
・英文付保証明書(COI)発行|主催者要件の読み解きと提出・差し戻し対応
・海外展示会保険|英文付保証明書(COI)発行
・国際学会に出展するときの保険|海外展示会と何が違うか
※この記事は、賠償責任保険の考え方の概要をご説明したものです。実際に補償される範囲は、ご契約いただく保険会社の約款および証券の記載によります。個別の条件については、お問い合わせの際にご確認ください。
