業務過誤賠償責任保険(E&O)とは|海外ソフトウェア受託・AIコンサルで求められる保険
業務過誤賠償責任保険(E&O保険)とは、業務上のミスや怠慢(過誤)によって顧客に経済的な損失を与え、損害賠償責任を負った場合に備える保険です。英語では Errors & Omissions Insurance、IT・ソフトウェア分野では Technology E&O や Professional Liability と呼ばれます。製品による身体・財物の損害を対象とする PL保険や CGL保険とは守備範囲が異なり、「納品したシステムの不具合で顧客の業務が止まった」「助言の誤りで顧客が損失を出した」といった純粋経済損失を対象にします。
海外の顧客からソフトウェア開発やAIコンサルティングを受託すると、契約書の保険条項に「Professional Liability / Errors & Omissions Insurance:USD 1,000,000 以上」のような要求が入ることがあります。要点は3つです。
- 英文CGLは「身体・財物の損害」、E&Oは「ミスによる経済的損失」を補償する。CGLだけではこの要求を満たせない
- 国内のIT業務過誤賠償責任保険に英文の付保証明書(COI)を付けて対応できる場合と、英文証券が必要な場合がある。分かれ目は契約書の文言
- E&Oは claims-made(請求ベース)が一般的で、契約時期と遡及日(Retroactive Date)の設計が重要
| 英文CGL保険 | E&O(業務過誤)保険 | サイバー保険 | |
|---|---|---|---|
| 補償するもの | 第三者の身体・財物の損害 | 業務ミスで顧客に与えた経済的損失 | 情報漏えい・不正アクセスに伴う費用と賠償 |
| 典型的な事故 | 訪問先でPCを壊した、展示会で来場者がケガ | 納品したシステムの欠陥で顧客の業務が止まり損害が出た | 顧客データが漏えいし通知・調査費用がかかった |
| 海外契約での呼び方 | Commercial General Liability | Professional Liability / Technology E&O | Cyber Liability / Network Security & Privacy |
| 補償方式 | occurrence(事故発生ベース)が多い | claims-made(請求ベース)が多い | claims-made が多い |
ここからは、なぜ「製品には保険をかけているのに賠償を求められる」のか、実際の場面からご説明します。
海外に製品を出している。生産物賠償責任保険(PL保険)にも加入している。それなのに、取引先から損害の賠償を求められた。
このとき問題になっているのが、製品そのものの欠陥ではなく、その前後で自社が行った「仕事」のほうであることがあります。海外の契約書に、CGL(賠償責任保険)とは別に保険の付保義務が書かれていて、何を用意すればよいのか分からない、という形でご相談をいただくこともあります。
当社にこの分野でお寄せいただくご相談で多いのは、アプリ・ソフトウェアの開発(海外展開を含む)と、AIコンサルティング・AI導入支援の2つです。いずれも、引き渡すものが「モノ」ではなく「仕事」であるため、賠償と保険が結びつきにくい領域です。
この記事では、製造業とIT・AI分野の場面から、何が起きているのかをご説明します。
Q. 遡及補償が適切な専門職業賠償責任保険(E&O)は、どう選べばよいですか?
A. 遡及日を事業開始日(または前の契約の遡及日)まで設定できるかを確認します。保険会社を切り替えるときに遡及日が新しくなると、それまでの業務が補償されません。→ 賠償責任保険の選び方Q&A
目次
1. 製品には保険をかけているのに、賠償を求められることがあります
2. その事故は、製品の欠陥ではなく「仕事」の過誤かもしれません
1. 製品には保険をかけているのに、賠償を求められることがあります
海外向けに製品を出している企業の多くは、製品が原因で第三者にケガをさせたり、物を壊したりした場合に備えて保険に加入しています。
ところが実際の請求は、その形をとらないことがあります。
・据え付けた設備が、仕様どおりに動かなかった
・技術指導の内容に誤りがあり、相手方の生産が止まった
・検査で見落としがあり、後工程でやり直しが発生した
・納品したシステムに不具合があり、相手方の業務が停止した
これらに共通しているのは、壊れたのは「モノ」ではなく、相手方の事業だという点です。ケガ人も出ていなければ、物が壊れてもいない。それでも相手方には損害が出ていて、その回復を求められています。
製品にかけた保険が想定しているのは、多くの場合、製品の欠陥に起因する対人・対物の損害です。上のような損害は、その想定の外にあります。
2. その事故は、製品の欠陥ではなく「仕事」の過誤かもしれません
賠償の請求を受けたとき、まず切り分けたいのは「何が原因とされているか」です。
| 原因とされているもの | 生じている損害 | 主に対応する保険の領域 |
| 引き渡した製品そのものの欠陥 | 第三者のケガ、他人の財物の損壊 | 生産物賠償責任(PL)の領域 |
| 自社が行った役務の過誤や不履行 | 相手方に生じた経済的な損失 | 業務過誤賠償責任(E&O)の領域 |
ここでいう役務とは、設計、助言、技術指導、監督、据付、試運転、検査、開発、運用などを指します。英語では Professional Liability、Errors and Omissions(E&O)、IT分野では Technology E&O と呼ばれます。
製造業では、この2つが1つの案件の中に同居していることがよくあります。製品を売っているつもりでも、実際には設計や据付や技術指導がセットになっている。そこでの過誤は、製品の欠陥とは別の話として扱われます。
※ここではPL保険そのものの詳しい説明はしていません。切り分けの目安として、原因と損害の形をご覧ください。
3. 製造業の場合|設計・技術指導・据付・試運転・検査
製造業で「仕事の過誤」が問題になりやすいのは、製品を引き渡す前後の工程です。
設計・仕様の検討
相手方の要求に合わせて仕様を詰める段階です。仕様の判断に誤りがあれば、製造された物に欠陥がなくても、目的を果たせません。
据付・試運転
現地に人を送り、設置し、立ち上げるまでを請け負う場合です。据付の不備で設備が動かなければ、相手方の生産計画に直接影響します。
技術指導・監督
現地の作業者への指導や、工事の監督を行う場合です。指導内容の誤りが、そのまま相手方の損失につながります。
検査・試験
出荷前後の検査を請け負う場合です。見落としがあれば、後工程での手戻りや回収の費用が発生します。
いずれも、輸出契約書やサービス契約書の中に、製品の売買とは別の条項として書かれていることが多い部分です。契約書に役務の記載があるかどうかが、最初の確認点になります。
4. アプリ・ソフトウェア開発の場合|受託開発・SaaS・運用・データ
アプリやソフトウェアの開発では、そもそも引き渡す「モノ」がありません。提供しているものが最初から役務であるため、賠償の話が保険と結びつきにくいという事情があります。
受託開発・アプリ開発
納品したアプリやシステムに不具合があり、相手方の業務が止まった。仕様の解釈違いで、想定した機能が実現していなかった。納期に間に合わなかった。
海外向けのアプリ配信・海外展開
海外の利用者や現地法人に向けてアプリを提供する場合、現地の法令や取引先との契約にもとづく責任が加わります。国内向けには求められなかった保険が、海外展開の段階で条件として出てくることがあります。
SaaS・クラウドサービスの提供
サービスの停止や不具合により、利用している企業の業務に影響が出た。契約したサービス水準(SLA)を満たせなかった。
運用・保守の受託
運用を任されているシステムが停止し、相手方の売上が失われた。復旧に想定以上の時間がかかった。
データの取り扱い
預かっていたデータを失った、あるいは復元できなくなった。
海外の企業と取引する場合、これらについて契約書に責任と保険の条項が置かれていることがあります。日本国内の取引では求められなかったものが、海外の取引で初めて求められる、という順番になりやすい分野です。
5. AIコンサルティング・AI導入支援の場合
AIの導入支援やコンサルティングは、成果物がプログラムというより助言と設計そのものであることが多く、賠償の対象になりにくいと受け取られがちです。実際には、この分野は業務過誤賠償責任(E&O)が最も素直に当てはまる形をしています。
問題になりやすいのは、次のような場面です。
助言・設計の内容
提案したモデルや構成が、想定した精度や処理能力に達しなかった。前提の置き方に誤りがあり、相手方の投資が回収できなかった。
出力の誤りにもとづく判断
導入したシステムの出力に誤りがあり、それをもとに相手方が判断を行って損失が生じた。
学習データと権利関係
学習や検証に用いたデータの取り扱いをめぐって、第三者から権利を主張された。
個人情報・機密情報
相手方から預かったデータの取り扱いに問題があった。
規制への適合
提供先の国や地域で求められる規制への適合が不十分であると指摘された。
海外の企業がクライアントである場合、契約書に Professional Liability や Technology Errors and Omissions の付保義務が入っていることがあります。近年は、AIの利用そのものに関する条項が加えられている例も見られます。
AIに関わる業務は新しく、業務の中身も会社ごとに大きく異なります。どこまでを引き受けているのか(助言までか、実装までか、運用までか)を具体的にお伺いしたうえでの検討になります。
6. 海外の契約書に付保義務が書かれていたら
海外の取引先との契約書には、保険の付保義務(Insurance Requirements)が条項として置かれていることがあります。
そこに書かれる名称は、次のようなものです。
・Professional Liability Insurance
・Errors and Omissions Insurance(E&O)
・Technology Errors and Omissions Insurance
注意していただきたいのは、これらがCGL(Commercial General Liability)と並べて書かれていることがあるという点です。並記されている場合、CGLに加入しているだけでは条項を満たしません。それぞれ別の保険として求められています。
また、限度額、保険期間、証明書の提出方法、追加被保険者の指定などが、あわせて指定されていることもあります。CGLの場合と同じく、加入していること自体ではなく、書かれた条件どおりに入っていることを書類で示せるかどうかが問われます。
CGLについては英文CGL保険|補償の範囲と求められる条件で、証明書については英文付保証明書(COI)発行でご説明しています。
契約書の保険条項で確認する5項目
- 保険の種類:Professional Liability/Technology E&O/Cyber のどれか、複数か。「Technology E&O and Cyber combined」のように一体で要求されることもあります
- 支払限度額(Limits):「per claim」と「aggregate」の両方。USD 1M/2M、EUR 1M などが多く見られます
- 補償方式と遡及日:claims-made の場合、契約開始前の業務まで遡って補償するか(Retroactive Date)。過去の納品物に対する請求が契約後に来ることがあります
- 証明書(COI)の提出:様式(ACORD 25 など)、宛先(Certificate Holder)、提出期限。E&Oでは Additional Insured の指定は通常できないため、要求されている場合はその旨を顧客に説明する必要があります
- 裁判管轄・準拠法(Jurisdiction / Governing Law):海外の裁判所での請求を補償対象に含むか。国内の和文契約では海外の訴訟を除外しているものがあります
相手の要求が「証明書の提出」だけであれば、国内の業務過誤賠償責任保険に英文COIを付けて対応できるケースがあります。一方、海外の裁判管轄を含める、英文の証券そのものを求められる、限度額が大きい、といった条件では、英文のE&O証券を手配する必要があります。どちらになるかは契約書の文言で決まりますので、該当条項をお送りいただければ先に整理してからお見積りします。
7. よくあるご質問
Q. PL保険に入っていれば、E&Oは要りませんか
A. 対象としている領域が異なります。製品の欠陥に起因する対人・対物の損害と、役務の過誤に起因する相手方の経済的な損失は、別のものとして扱われます。役務を提供している場合は、別に検討していただく必要があります。
Q. 契約書に Professional Liability と書かれています。CGLで代用できますか
A. できないことがほとんどです。とくにCGLと並記されている場合は、それぞれ別の保険として求められています。CGLは対人・対物の賠償責任が中心で、役務の過誤による経済的損失は対象としていないのが一般的です。
Q. 製造業ですが、当社は製品を売っているだけです。関係ありますか
A. 契約書をご確認ください。据付、試運転、技術指導、検査といった役務が契約に含まれていることがあります。売買と役務が1本の契約書にまとまっていると、意識されないまま役務を引き受けている状態になりがちです。
Q. すでに納品したものについても対象になりますか
A. 業務過誤賠償責任保険は、損害賠償の請求がなされた時点を基準として設計されていることが一般的です。過去に行った業務まで遡って対象とするかどうかは、契約ごとの条件によります。ご相談の際にご確認ください。
Q. 保険料はどのくらいになりますか
A. 業種、提供している役務の内容、対象となる国、限度額、取引の規模によって変わります。一律の目安をお示しすることが難しいため、条件をお知らせいただいたうえでご案内しています。
Q. アプリ開発の会社です。海外にも配信していますが、対象になりますか
A. 当社へのご相談で最も多い分野のひとつです。受託開発か、自社サービスの提供か、運用まで請け負っているかによって見るべき点が変わりますので、業務の範囲をお知らせください。
Q. AIコンサルティングを行っています。何を伝えればよいですか
A. どこまでを引き受けているのか(助言まで、実装まで、運用まで)と、提供先の国や地域をお知らせください。あわせて、学習や検証に使うデータをどこから調達しているかも確認事項になります。
8. ご相談の際にお知らせいただきたいこと
業務過誤賠償責任(E&O)は、業種と業務の内容によって、引受の可否も条件も変わります。まずは次の点をお知らせください。
・業種と、提供している役務の具体的な内容
・対象となる国や地域
・取引の規模(1件あたりの契約金額の目安)
・契約書に保険の条項がある場合は、その条項
契約書の条項は、日本語に訳したり、関係がありそうな部分だけを抜き出したりせず、そのままお送りください。抜き出す段階で判断が必要になってしまうためです。PDFでもスクリーンショットでも構いません。
内容を確認のうえ、どの保険で対応できるか、あるいは対応が難しいかを含めてご案内します。お引き受けできるかどうかは、業務の内容と契約条件を確認したうえでのご案内となります。
当社は海外の賠償責任保険を主に取り扱っており、2024年からは海外案件で年間100件を超えるご相談をいただいています。
9. お問い合わせ
海外ビジネス保険センター(GBIC東京)
Email:gbic@beam-rm.jp
お急ぎの場合は、お電話でもご相談いただけます。
検討段階でしたら、お名前とご連絡先だけで結構です。具体的なお見積りをお急ぎの場合は、必要事項をまとめて入力いただける専用フォームをご用意しています。
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※この記事は、賠償責任保険の考え方の概要をご説明したものです。実際に補償される範囲は、ご契約いただく保険会社の約款および証券の記載によります。個別の条件については、お問い合わせの際にご確認ください。
