輸出PL保険と懲罰的損害賠償|アメリカで製品事故が起きたとき、保険で出るもの・出ないもの

アメリカへ製品を輸出している企業から、「アメリカでは懲罰的損害賠償で何億円も請求されると聞いた。PL保険に入っていれば払ってもらえるのか」というご質問をよくいただきます。

結論から言うと、懲罰的損害賠償は、多くの保険契約で補償の対象外です。一方で、被害者の損害を埋め合わせる賠償金と、訴訟の費用は補償の対象になります。だからこそ、輸出PL保険では「支払限度額」と「訴訟費用の扱い」が大事になります。

この記事では、懲罰的損害賠償の仕組みと、保険で出るもの・出ないもの、輸出企業が備えておくことを、保険代理店の立場から整理します。法律の判断は、現地の弁護士にご確認ください。

1. 懲罰的損害賠償とは

損害賠償には、大きく分けて2つの種類があります。

  • 補償的損害賠償:治療費、休業による損失、壊れた物の修理費、精神的な苦痛など、被害者に実際に生じた損害を埋め合わせるもの
  • 懲罰的損害賠償:加害者の行為が悪質な場合に、制裁と再発の抑止のために、実際の損害とは別に上乗せして命じられるもの

懲罰的損害賠償は、アメリカの多くの州で認められている制度です。日本の法律にはこの制度がありません。

ただし、どの事故でも命じられるわけではありません。多くの州では、欠陥を知りながら放置した、危険を隠したなど、悪質さが認められる場合に限られます。また、金額に上限を設けている州や、そもそも懲罰的損害賠償を認めていない州もあります。アメリカの最高裁判所も、実際の損害に比べて極端に大きい金額は、憲法上許されないとの判断を示しています。

2. アメリカの製品事故で、懲罰的損害賠償が問題になる理由

製造者は「過失がなくても」責任を問われる

アメリカの製造物責任では、製品に欠陥があれば、製造者に過失がなくても責任を問われるのが基本です。製造者だけでなく、輸入者や販売店も訴えられることが多く、販売店から製造者へ請求が回ってくることもあります。

陪審が金額を決めることがある

民事裁判でも陪審による審理が行われることがあり、被害者の事情に共感した陪審が、高額の賠償を認めることがあります。

証拠開示で、社内の資料が問われる

訴訟では、企業が持っている設計・試験・苦情対応などの資料の提出を求められます。「事故の報告を受けていたのに対応しなかった」といった記録が出てくると、悪質さが問われ、懲罰的損害賠償の請求につながりやすくなります。

3. 保険で出るもの・出ないもの

補償の対象になるもの

  • 被害者の損害を埋め合わせる賠償金(補償的損害賠償)
  • 訴訟の費用(弁護士費用、専門家の鑑定費用など)

補償の対象外になりやすいもの

  • 懲罰的損害賠償
  • 製品の回収(リコール)の費用
  • 契約で特別に引き受けた責任(契約の内容によります)

懲罰的損害賠償は、多くの契約で補償の対象外とされています。また、アメリカでは州によって、懲罰的損害賠償を保険で補うことを認める州、認めない州、条件によって認める州があり、扱いが分かれています。「保険で払えるかどうか」は、契約の内容と、どの州の法律が適用されるかの両方で決まります。

訴訟費用は「内枠」か「外枠」か

アメリカで訴訟になると、判決が出るまで、あるいは和解するまでの費用がかさみます。この訴訟費用が、支払限度額の内側で払われる契約(争訟費用内枠払い)では、費用を払うほど賠償金に使える額が減っていきます。限度額の外側で別に払われる契約かどうかで、実際の備えの厚みは大きく変わります。どちらになっているかは、保険約款と契約の設定によります。

4. 「日本の会社なら、日本では払わずに済む」は本当か

日本の最高裁判所は1997年、アメリカの裁判所が命じた懲罰的損害賠償の部分について、日本の公の秩序に反するとして、日本国内での執行を認めない判断をしています。その後の判決でも、この考え方は維持されています。

しかし、これで安心できるわけではありません。

  • 日本で執行できないのは懲罰的損害賠償の部分です。補償的損害賠償の部分は、日本でも執行が認められうるとされています
  • アメリカに資産や売掛金、子会社、取引の口座があれば、現地で差し押さえられることがあります
  • 判決に応じなければ、現地の販売店や通販サイトとの取引を続けられなくなるおそれがあります

アメリカで販売を続ける以上、「日本にいるから払わなくてよい」という前提で備えるのは危険です。

5. 輸出企業が備えておくこと

① 支払限度額を、取引先の条件と輸出先に合わせる

アメリカの取引先は、保険の限度額を指定してくることが多くあります。条件書の額を満たしたうえで、製品の性質(人の体に触れる、口に入る、火や電気を使うなど)も踏まえて決めます。

② 訴訟費用の扱いを確認する

訴訟費用が限度額の内側か外側かを、契約の前に確認します。北米向けの輸出では、ここが備えの厚みを大きく左右します。

③ 事故やクレームの記録を残し、早く対応する

懲罰的損害賠償は、企業の対応の悪質さが問われる制度です。苦情や事故の報告を受けたときの記録、調査、注意喚起や改善の経緯を残しておくことは、保険とは別の大事な備えです。

④ 請求を受けたら、返事をする前に相談する

相手に責任を認める返事や、支払いの約束をする前に、保険代理店と保険会社へ連絡します。初動の対応が、その後の賠償額を左右します。

6. よくあるご質問

懲罰的損害賠償まで補償する保険はありますか

多くの契約では対象外です。また、州の法律で保険による補てんが認められていない場合もあります。保険で備えられる部分(補償的損害賠償と訴訟費用)を厚くしておくことが現実的です。

アメリカに子会社も拠点もありません。訴えられることはありますか

あります。輸出した製品がアメリカで販売・使用されていれば、製造者として現地の裁判所で訴えられることがあります。販売店や輸入者が訴えられ、その負担を求められることもあります。

国内のPL保険に入っていれば足りますか

国内のPL保険は、原則として日本国内での事故が対象です。海外向けの特約をつけている場合も、北米が対象外になっていたり、限度額が小さかったりすることがあります。現在の保険証券を拝見して確認します。

7. まとめ

  • 懲罰的損害賠償は、加害者の悪質な行為に対して、実際の損害とは別に上乗せされる賠償です
  • 多くの保険契約で補償の対象外ですが、補償的損害賠償と訴訟費用は補償の対象です
  • 北米向けの輸出では、支払限度額と、訴訟費用が限度額の内側か外側かを特に確認しましょう
  • 日本で執行されないのは懲罰的損害賠償の部分だけで、アメリカでの取引や資産には影響が及びます

アメリカ向けの輸出があり、今の保険で足りているか確認したい場合は、海外PL保険のページからご相談ください。

→ 海外PL保険の見積・加入|輸出製品の賠償責任と取引先への保険証明

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  • このブログの記事は「若宮大志」が書きました。

    若宮大志

    平素、ご契約者様には弊社にて保険契約を賜り、誠にありがとうございます。また取引業者様におかれましても、弊社の業務運営において日頃多大なご支援をいただき感謝を申し上げます。

     さて昨今の大きな問題として、自然災害の増加、資源・物価高による保険金の増大、保険金の不正請求等にもより、お客様にお支払いいただく保険料の上昇が顕著となった1年間でした。また損保大手4社による企業カルテル問題では、大きなところでは政策保有株の原則禁止と表明されたり、小さな部分では他社証券の取得や満期更改情報の取得を制限すると表明されたりしましたが、実質的に保険業界の企業体質はなかなか変わらないことが危惧されます。また保険会社の営業職員や保険代理店社員がお客様の保険料を不正に流用したり、店主が顧客と結託し、保険金詐欺に加担していた事件も明るみとなりました。

     国も企業も、身を正すことができない大人たちが跋扈することによって、業界が成長しないばかりか市場における競争力が失われ続けていると感じます。それは国内のみならまだしも、グローバルで相対的に力を失っているのが一番大きな弊害だと感じるものです。

     私たち株式会社BEAMリスクマネージは、政府による指導や保険会社の改革を待つのではなく、高いレベルのコンプライアンス基準による業務遂行を通じ、日本を、世界をリードする最先端の保険コンサルティング会社を目指してまいります。引き続きのご指導、ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。


    2024年12月吉日
    株式会社BEAMリスクマネージ
    代表取締役 若宮 大志

     

    プロフィール

    若宮 大志(わかみや たいし)
    株式会社BEAMリスクマネージ 代表取締役
    海外ビジネス保険センター(GBIC東京)責任者

    保険業界での実務経験は13年。うち8年を海外ビジネス保険に専従しています。

    AIG損害保険株式会社に在籍したのち、2020年5月に株式会社BEAMリスクマネージを設立。同年8月にAIG損害保険を退職し、独立しました。

    国内の法人保険を手がける中で、海外に事業を広げようとする中小企業が「英文の証券が用意できない」「主催者から届いた英文の要求が読み解けない」という理由で、商談や出展を止めてしまう場面に何度も立ち会いました。保険が事業の足かせになっている——この状況を変えたいと考え、海外ビジネス保険に専門特化しています。

    現在も、AIG損害保険をはじめChubb損害保険、スター保険会社など、海外リスクの引受に強い保険会社を取り扱っています。

    専門領域

    • 海外展示会保険(主催者指定要件への対応、英文付保証明書の発行)
    • 英文CGL・PL保険(海外での賠償責任)
    • 外航貨物海上保険(輸出入貨物の輸送中・保管中)
    • 貿易保険
    • 取引信用保険(海外売掛債権の未回収リスク)
    • 海外リコール保険
    • 海外拠点を含むサイバー保険
    • グローバル保険プログラム(海外子会社を含む保険の一元管理)

    取扱保険会社:AIG損害保険、Chubb損害保険、スター保険会社

    保有資格

    • 損害保険トータルプランナー(日本損害保険協会)
    • 貿易実務検定

    対応実績

    独立以来の累計で、次の実績があります。

    • 海外展開を支援した企業(累計) …… 約150社
    • 海外展示会の保険手配(累計) …… 約180件
    • 対応した国・地域 …… 22カ国

    海外展示会の保険手配では、主催者が求める補償項目・補償限度額・追加被保険者(Additional Insured)の記載要件を確認したうえで保険を設計し、英文付保証明書(COI)を発行しています。

    英語対応

    英文証券および英文付保証明書(COI)の発行に対応しています。

    主催者から届く英文の出展要項を読み解き、「Commercial General Liability USD 1,000,000」「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」といった要求条件が日本のどの保険に対応するのかを確認したうえで手配します。

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