海外PL保険とリコール保険の違い|製品回収の費用はPL保険では出ない理由と、輸出企業の備え方

輸出している製品に不具合が見つかり、海外で回収(リコール)することになった。そのとき「PL保険に入っているから大丈夫」と考える方は少なくありません。

ところが、製品を回収する費用は、PL保険では基本的に補償されません。PL保険とリコール保険は、守っているものがそもそも違うからです。

この記事では、海外PL保険とリコール保険の違いと、輸出企業がどう備えればよいかを解説します。

要点は3つです。

  1. PL保険は、製品が原因で他人にケガをさせたり物を壊したりしたときの「賠償」を補償します。リコール保険は、製品を回収するための「自社の費用」を補償します。
  2. 海外のリコールは、回収の範囲が国をまたいで広がりやすく、当局への対応や取引先の費用も絡むため、かかる費用が読みにくくなります。
  3. 「PLに入っているから回収も大丈夫」は二重の思い込みです。海外の事故が入っているかどうかと、回収の費用が出るかどうかは、別々に確認してください。

1. PL保険とリコール保険は何が違うか

2つの保険の違いを、表にまとめます。

比べるところ PL保険(海外PL保険) リコール保険
補償するもの 製品が原因で他人にケガをさせた、物を壊したときの賠償 製品を回収するためにかかる自社の費用
お金が向かう先 被害を受けた人への賠償、裁判の費用 回収の作業や告知など、自社が負担する費用
きっかけ 事故が起きて、損害賠償を請求されたとき 不具合が見つかり、回収を決めたとき(事故の前でも起こりうる)
代表的な費用 賠償金、弁護士費用など 回収の手配、お客様への告知、輸送・保管・廃棄、代わりの品や修理など

ポイントは「きっかけ」の違いです。PL保険は、事故が起きて誰かから請求されて初めて動きます。リコールは、事故が起きる前に、危ないと分かった段階で行うことも多く、そのときはPL保険の出番がありません。

2. PL保険では出ない、リコールの費用

リコールでは、次のような費用がかかります。これらは、PL保険では基本的に補償の対象外です。

回収そのものの費用

販売店や倉庫、お客様の手元から製品を集める手配の費用です。海外では、現地での回収業者の手配や、国をまたいだ輸送が必要になることがあります。

お客様への告知の費用

購入した人に知らせるための通知、広告、ウェブサイトでの告知などの費用です。国ごとに言語や告知の方法が変わります。

輸送・保管・廃棄の費用

回収した製品を運び、保管し、処分する費用です。製品の種類によっては、廃棄の方法が決まっていることもあります。

代わりの品・修理の費用

回収した製品の代わりに新しい品を送る、あるいは修理する費用です。

原因を調べる費用

不具合の原因を調べ、どこまで回収するかを決めるための検査や調査の費用です。

どの費用まで補償されるかは、リコール保険の中でも商品と契約によって違います。補償の範囲は、契約の前に一つずつ確認してください。

3. 海外のリコールで費用が読みにくい理由

国内のリコールと比べて、海外のリコールは費用の見通しが立てにくくなります。理由は主に3つです。

回収の範囲が国をまたいで広がる

同じ製品を複数の国に出していれば、1つの国で不具合が見つかったとき、ほかの国でも回収が必要になることがあります。ECで売っている場合は、どの国の誰が買ったかを追うところから始まります。

国ごとに当局と手続きが違う

製品の安全を管轄する当局や、回収の届け出の方法は国ごとに違います。たとえばアメリカでは、消費者向けの製品について消費者製品安全委員会(CPSC)が回収を監督しています。当局とのやり取りや、決められた形式での告知が必要になることがあります。

取引先の費用が乗ってくる

販売店や輸入者が回収のためにかけた費用を、作った会社に請求してくることがあります。取引先との契約で、回収の費用を誰が負担するかが決められていることも多く、その内容によって負担が大きく変わります。

4. PLとリコールが同時に起きるとき

同じ不具合から、PLの請求とリコールが同時に起きることがあります。

たとえば、製品の不具合で海外のお客様がケガをして、損害賠償を請求された。同じ不具合が他の製品にもあると分かり、回収することになった。この場合、

  • ケガをしたお客様への賠償は、PL保険の話
  • ほかの製品を回収する費用は、リコール保険の話

と、2つの保険にまたがります。PL保険だけに入っていると、賠償は補償されても、回収の費用は自社で負担することになります。

逆に、事故が起きる前に不具合が見つかって回収する場合は、PL保険は関係なく、リコールの費用だけが発生します。どちらの場面も起こりうるため、2つは分けて備えておく必要があります。

5. 取引先との契約で決まること

海外の取引先との契約書には、リコールについての取り決めが入っていることがあります。確認しておきたいのは次の点です。

回収の費用を誰が負担するか

「不具合による回収の費用は、すべて製造者が負担する」といった条項が入っていることがあります。販売店側でかかった費用や、売れなくなった分まで請求の対象になるかどうかは、条項の書き方によります。

不具合を知らせる義務

不具合が分かったときに、いつまでに取引先へ知らせるかが決められていることがあります。知らせるのが遅れると、それ自体が契約違反になることもあります。

補償の条項と保険のずれ

契約で広く補償すると約束しても、保険がその範囲まで見るとは限りません。契約で引き受けた責任と、保険が補償する範囲のずれは、PL保険と同じようにリコールでも起こりえます。契約書にサインする前に、保険と突き合わせてください。

6. リコール保険で確認するポイント

リコール保険を検討するときは、次の点を確認してください。

確認すること 見るポイント
補償が動くきっかけ 自社で回収を決めた場合も対象か。当局からの命令に限られるか。事故が起きる前の回収も含むか
補償する費用の範囲 回収、告知、輸送・保管・廃棄、代わりの品、原因の調査のうち、どれが入っているか
対象の地域 輸出先の国での回収が対象に入っているか
取引先の費用 販売店や取引先がかけた回収の費用を請求されたとき、それも対象になるか
限度額と自己負担 1回の回収で出る上限と、自社で負担する額はいくらか

リコール保険は、商品によって補償の範囲の違いが大きい保険です。「リコール保険に入っている」だけで安心せず、自社の製品と輸出先で起こりうる回収を想定して、中身を確認してください。

7. 輸出の形ごとの考え方

海外のお客様に直接売っている、ECで売っている

回収の手配も告知も、自社が中心になって行う立場です。どの国の誰に売ったかの記録を残しておくことが、回収の範囲と費用を抑える第一歩になります。

販売代理店・輸入者を通して売っている

回収の作業は代理店や輸入者が行い、その費用を請求されることが多くなります。契約書の回収の条項と、リコール保険が取引先の費用まで見るかを確認してください。

部品として納めている

完成品のメーカーが回収を行い、原因が部品にあれば、その費用を部品メーカーに請求してくることがあります。完成品の回収は規模が大きくなりやすいため、納め先との契約と保険を早めに確認してください。

海外PL保険そのものの考え方や、国内PLの海外特約との違いは「海外PL保険とは|補償範囲・国内PLの海外特約との違い・輸出形態別の選び方」で解説しています。アメリカ向けの場合は「アメリカに輸出する製品のPL保険|訴えられる範囲・取引先の保険条件・準備の順番」もあわせてご覧ください。

8. よくあるご質問

Q. PL保険に入っていれば、製品の回収の費用も出ますか。
A. 基本的には出ません。PL保険が補償するのは、製品が原因で他人にケガをさせたり物を壊したりしたときの賠償です。回収の費用は、リコール保険で備えるのが一般的です。

Q. 事故がまだ起きていない段階で回収する場合も、リコール保険は使えますか。
A. 商品によります。事故が起きる前の回収を対象にしているか、当局の命令がある場合に限っているかは、リコール保険ごとに違います。契約の前に確認してください。

Q. 海外の販売店がかけた回収の費用を請求されたら、保険で出ますか。
A. リコール保険が取引先の費用まで対象にしているかによります。あわせて、取引先との契約で回収の費用を誰が負担すると決めているかも確認が必要です。

Q. リコール保険は、海外PL保険とセットで入る必要がありますか。
A. 必ずしもセットである必要はありませんが、同じ不具合から賠償と回収が同時に起きることがあるため、両方を並べて検討するのがおすすめです。補償の地域や限度額をそろえて考えると、抜けが見つけやすくなります。

Q. どんな製品だとリコールの備えが必要ですか。
A. 人の体に触れるもの、口に入れるもの、電気や火を使うもの、子どもが使うものなどは、回収が起きたときの影響が大きくなりやすい製品です。輸出先や販売の量もあわせて考えます。

9. ご相談と関連ページ

製品の説明、輸出先の国、売り方(直接・代理店経由・部品・EC)、今入っている保険の証券、取引先との契約書の回収や補償の条項(英文のままで結構です)を gbic@beam-rm.jp へお送りください。PLとリコールのそれぞれについて、備えられているところと手当てが要るところを整理してお返しします。

関連ページ

  • このブログの記事は「若宮大志」が書きました。

    若宮大志

    平素、ご契約者様には弊社にて保険契約を賜り、誠にありがとうございます。また取引業者様におかれましても、弊社の業務運営において日頃多大なご支援をいただき感謝を申し上げます。

     さて昨今の大きな問題として、自然災害の増加、資源・物価高による保険金の増大、保険金の不正請求等にもより、お客様にお支払いいただく保険料の上昇が顕著となった1年間でした。また損保大手4社による企業カルテル問題では、大きなところでは政策保有株の原則禁止と表明されたり、小さな部分では他社証券の取得や満期更改情報の取得を制限すると表明されたりしましたが、実質的に保険業界の企業体質はなかなか変わらないことが危惧されます。また保険会社の営業職員や保険代理店社員がお客様の保険料を不正に流用したり、店主が顧客と結託し、保険金詐欺に加担していた事件も明るみとなりました。

     国も企業も、身を正すことができない大人たちが跋扈することによって、業界が成長しないばかりか市場における競争力が失われ続けていると感じます。それは国内のみならまだしも、グローバルで相対的に力を失っているのが一番大きな弊害だと感じるものです。

     私たち株式会社BEAMリスクマネージは、政府による指導や保険会社の改革を待つのではなく、高いレベルのコンプライアンス基準による業務遂行を通じ、日本を、世界をリードする最先端の保険コンサルティング会社を目指してまいります。引き続きのご指導、ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。


    2024年12月吉日
    株式会社BEAMリスクマネージ
    代表取締役 若宮 大志

     

    プロフィール

    若宮 大志(わかみや たいし)
    株式会社BEAMリスクマネージ 代表取締役
    海外ビジネス保険センター(GBIC東京)責任者

    保険業界での実務経験は13年。うち8年を海外ビジネス保険に専従しています。

    AIG損害保険株式会社に在籍したのち、2020年5月に株式会社BEAMリスクマネージを設立。同年8月にAIG損害保険を退職し、独立しました。

    国内の法人保険を手がける中で、海外に事業を広げようとする中小企業が「英文の証券が用意できない」「主催者から届いた英文の要求が読み解けない」という理由で、商談や出展を止めてしまう場面に何度も立ち会いました。保険が事業の足かせになっている——この状況を変えたいと考え、海外ビジネス保険に専門特化しています。

    現在も、AIG損害保険をはじめChubb損害保険、スター保険会社など、海外リスクの引受に強い保険会社を取り扱っています。

    専門領域

    • 海外展示会保険(主催者指定要件への対応、英文付保証明書の発行)
    • 英文CGL・PL保険(海外での賠償責任)
    • 外航貨物海上保険(輸出入貨物の輸送中・保管中)
    • 貿易保険
    • 取引信用保険(海外売掛債権の未回収リスク)
    • 海外リコール保険
    • 海外拠点を含むサイバー保険
    • グローバル保険プログラム(海外子会社を含む保険の一元管理)

    取扱保険会社:AIG損害保険、Chubb損害保険、スター保険会社

    保有資格

    • 損害保険トータルプランナー(日本損害保険協会)
    • 貿易実務検定

    対応実績

    独立以来の累計で、次の実績があります。

    • 海外展開を支援した企業(累計) …… 約150社
    • 海外展示会の保険手配(累計) …… 約180件
    • 対応した国・地域 …… 22カ国

    海外展示会の保険手配では、主催者が求める補償項目・補償限度額・追加被保険者(Additional Insured)の記載要件を確認したうえで保険を設計し、英文付保証明書(COI)を発行しています。

    英語対応

    英文証券および英文付保証明書(COI)の発行に対応しています。

    主催者から届く英文の出展要項を読み解き、「Commercial General Liability USD 1,000,000」「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」といった要求条件が日本のどの保険に対応するのかを確認したうえで手配します。

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