海外の展示会主催者や取引先から届く保険の要求文には、英語の専門用語が並びます。「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」「Primary and Non-contributory」。辞書で訳しても、何をすればよいのかは分かりません。
この記事では、英文付保証明書(COI/Certificate of Insurance)の要求文によく出る用語を、「何を求められているのか」「日本の保険でどう対応するのか」に分けて解説します。当センターに実際に寄せられた相談で多かった「CGLだけでは足りなかった」「限度額が届かない」「複数の名前を入れたい」といった点も加えています。
要点は3つです。
- COIは「保険に入っていること」を示す書類です。書類に名前を書いただけでは、補償は広がりません。
- Additional Insured や Waiver of Subrogation は、保険の特約(Endorsement)で裏付けて初めて意味を持ちます。
- 対応できるかどうかは、保険会社と商品によって変わります。要求文を受け取ったら、まず全文を見せてください。
1. まず全体像:要求文は4つの部分でできています
要求文の書き方は主催者や取引先ごとに違いますが、中身はおおむね次の4つに分けられます。
| 部分 |
よく出る用語 |
聞かれていること |
| どの保険か |
Commercial General Liability/Public Liability/Products Liability |
第三者への賠償責任の保険に入っているか |
| いくらか |
Each Occurrence/General Aggregate |
1事故あたり・期間中の合計の支払限度額 |
| 誰を守るか |
Named Insured/Additional Insured/Certificate Holder |
契約者は誰か、主催者などを被保険者に加えるか、証明書の宛先は誰か |
| どう支払うか |
Waiver of Subrogation/Primary and Non-contributory/Cross Liability |
求償しない、先に支払う、被保険者どうしの請求も対象にする、といった条件 |
以下、この順に用語を説明します。
2. どの保険か
Commercial General Liability(CGL)
米国で一般的な、企業の賠償責任保険です。施設の管理、業務の遂行、製品(生産物)が原因で第三者にけがをさせたり、物を壊したりしたときの賠償を補償します。米国の展示会や取引先は、ほぼこの名前で要求してきます。日本の賠償責任保険との違いは「CGL保険とは?英文CGL完全ガイド」で解説しています。
Public Liability
英国、オーストラリア、欧州の一部、中東などで使われる呼び名です。来場者など第三者への賠償責任の保険を指し、米国の General Liability にほぼ相当します。「Public Liability ○○ million」と書かれていたら、第三者賠償の支払限度額の指定です。
Products Liability(PL)
製品が原因の事故の賠償です。CGLの中に含まれていることが多い一方、要求文で別に書かれることもあります。製品を展示・販売・配布する場合は確認が要ります。
Public and Products Liability
オーストラリアやニュージーランドでよく見る書き方で、第三者賠償(Public Liability)と生産物賠償(Products Liability)をまとめて指定するものです。「Public and Products Liability AUD 20 million」のように、1つの限度額で両方を求められることがあります。展示や配布をする製品があるかどうかで、確認する範囲が変わります。
Employer's Liability/Workers' Compensation(使用者賠償・労災)
自社の従業員が業務中にけがをしたときの補償です。米国の会場や取引先では、CGLと並べて求められることがあります。CGLは第三者への賠償の保険なので、従業員のけがはCGLでは補えません。別の手配が要り、国や州によって扱いが異なるため、要求文にこの項目があれば早めにご相談ください。
3. いくらか(支払限度額)
Each Occurrence(Per Occurrence)
1回の事故あたりの支払限度額です。「USD 1,000,000 each occurrence」なら、1事故100万米ドルまで。
General Aggregate
保険期間中に支払う合計の上限です。1事故の限度額とは別に指定されます。
Products-Completed Operations Aggregate
製品や完了した作業が原因の事故について、期間中に支払う合計の上限です。
限度額は円建ての証券でも、COIに外貨換算で表示できるかどうかが論点になります。要求額に届いているかは、換算の仕方も含めて確認します。
限度額が足りないと言われたら(Umbrella/Excess Liability)
「1事故200万ドル・総額500万ドル」のように、高い限度額を求められることがあります。米国では、CGLの上にUmbrella(アンブレラ)やExcess Liability(超過賠償)の保険を重ねて限度額を積み上げるのが一般的です。
ただ、日本から手配する保険では、この上乗せの保険が用意できないことがあります。その場合は、元の保険の限度額を引き上げられるかを検討します。特約の限度額は元の保険の限度額を超えられない、といった制約もあるため、要求額と今の契約を並べて確認するところから始めます。
4. 誰を守るか
Named Insured(記名被保険者)
保険契約の本人です。展示会なら出展する会社。要求文やブース申込書に書いた英文社名と、COIの表記がずれていると差し戻しの原因になります。
Additional Insured(追加被保険者)
主催者、会場の運営会社、取引先などを、出展者の保険の「被保険者」に加えることです。出展者の活動が原因で主催者が訴えられたとき、出展者の保険で主催者も守られるようにする、という趣旨です。
守られる範囲は、出展者の業務や出展に起因する事故に限られるのが一般的です。主催者自身の落ち度をすべて引き受けるものではありません。
大事なのは、COIに主催者の名前を書くだけでは追加被保険者にならないことです。保険会社が特約で主催者を被保険者に加えて、初めて裏付けになります。日本の保険会社でも追加被保険者の設定ができる場合がありますが、可否と範囲は保険会社・商品によって異なります。
Certificate Holder(証明書の宛先)
COIを受け取る人、つまり証明書の宛先です。Additional Insured と並んで書かれることが多いのですが、別物です。Certificate Holder に書かれても、その人が補償の対象になるわけではありません。
| 項目 |
Additional Insured |
Certificate Holder |
| 意味 |
出展者の保険の被保険者に加える |
証明書の宛先 |
| 補償の対象になるか |
なる(出展者の業務に起因する範囲で) |
ならない |
| 必要な手続き |
保険会社の特約で追加する |
COIの宛先欄に記載する |
| 要求文での書き方の例 |
"shall be named as Additional Insured" |
"Certificate Holder: ○○" |
要求文が「Certificate Holder」だけなのか、「Additional Insured」まで求めているのかで、準備する内容が変わります。
Additional Insuredが複数になるとき
国際学会などでは、学会本体、運営会社、会場の3者をAdditional Insuredに入れるよう求められることがあります。複数でも対応できる場合がありますが、それぞれの正式な英文名称(法人名)が必要です。略称や日本語名では差し戻されることがあるため、要求文や契約書に書かれた表記をそのままお知らせください。
そもそもAdditional Insuredが要らないこともあります
確認してみると、主催者が求めていたのはCOIの提出だけで、Additional Insuredは不要だったということもあります。特約を付けるかどうかで手配の手間や期間が変わるため、「本当に必要な条件か」を最初に確かめます。
5. どう支払うか(条件の特約)
Waiver of Subrogation(求償権の放棄)
保険会社が保険金を支払ったあと、事故の原因をつくった相手(主催者など)に費用を請求し返すことを「求償」といいます。Waiver of Subrogation は、この求償をしないと約束する条件です。主催者は、出展者側の事故で自分が請求されない状態を求めています。
日本の保険でも、特約で求償しない取り扱いにできる場合があります。可否は保険会社の判断です。
Primary and Non-contributory
出展者の保険が、主催者自身の保険より先に支払い(Primary)、主催者の保険に分担を求めない(Non-contributory)という条件です。主催者は、自分の保険を使わずに済むことを求めています。
Cross Liability(Severability of Interests)
被保険者が複数いるときに、それぞれを別々の被保険者として扱う条件です。追加被保険者になった主催者と出展者の間の請求も、補償の対象として扱えるようにする趣旨です。英国・オーストラリアの展示会の要求文で見かけます。
Hold Harmless/Indemnify(契約上の補償)
これは保険の用語ではなく、出展契約や取引契約の条項です。「出展者は、自らの行為に起因する損害から主催者を守り、補償する」といった約束です。
注意したいのは、日本の賠償責任保険では、契約で特別に引き受けた責任によって重くなった賠償は、補償の対象外とされることが一般的な点です。契約書の条項と保険の補償範囲は、分けて確認します。
Endorsement(特約・裏書)
保険証券に追加する条件のことです。Additional Insured、Waiver of Subrogation、Primary and Non-contributory は、どれも特約で裏付けます。主催者から「endorsement のコピーも出して」と求められることもあります。
6. 期間とその他
Policy Period(保険期間)
保険の始期と終期です。展示会では、会期だけでなく搬入(Move-in)から搬出(Move-out)までを含めるよう求められます。たとえば会期3日の展示会なら、会期の前日から終了の2日後まで、のように前後の日数を含めて設定します。保険の始期は、COIの提出期限にも関わります。詳しくは「英文付保証明書(COI)|要求文に書かれている条件を実例で解説」で説明しています。
Insurer Rating(保険会社の格付け)
米国の会場では「A.M. Best A- VII 以上」のように、保険会社の格付けを指定することがあります。日本の保険会社で要件を満たせるかは、個別に確認が要ります。
Certificate of Insurance(COI)
ここまでの内容を1枚にまとめた「保険に入っていることの証明書」です。書式は保険会社や代理店によって異なります。米国では ACORD という業界書式がよく使われます。
会場と実施内容(Venue/Activities)
保険の引き受けは、どこで何をするかを前提に決まります。会場が変わった、ブースでライブ演奏や実演をする、といった事情があると、条件や保険料が変わることがあります。見積りの段階で、会場名と実施内容をできるだけ具体的にお知らせください。後から内容が違うと分かると、見積りのやり直しになります。
日本国内の展示会でも求められることがあります
海外の主催者が日本で開く展示会や学会では、国内の会場でも英文のCOIを求められることがあります。「国内だから日本の保険証券で足りる」とは限らないため、要求文があれば同じように確認します。
7. 要求文を受け取ったら
- 要求文の全文(出展者マニュアルの該当ページ)を手元にそろえる
- 1章の表の4つの部分に分けて、何を求められているかを書き出す
- 今の保険証券と特約で満たせるか、足りないのはどこかを確認する
- 足りない部分は、特約の追加か、別の保険の手配で埋める
- 提出期限から逆算して、COIの発行を依頼する
COIを発行した後で、宛先の変更やAdditional Insuredの追加を求められることもあります。この場合は証明書の書き直しだけでは済まず、保険契約の変更手続きが要ります。差し戻しの連絡が来たら、文面をそのまま転送してください。
当センターでは、要求文をそのままお送りいただければ、どの条件が満たせて、どこに手当てが要るかを読み解いたうえでご案内しています。
8. よくあるご質問
Q. COIに主催者の名前を書いてもらえば、Additional Insuredになりますか。
A. なりません。保険会社が特約で主催者を被保険者に加えて、初めてAdditional Insuredになります。名前がCOIに載っているだけでは、Certificate Holder(宛先)の扱いです。
Q. Waiver of Subrogationは日本の保険でも対応できますか。
A. 特約で求償しない取り扱いにできる場合があります。可否は保険会社・商品によって異なるため、要求文を見せていただいたうえで確認します。
Q. Public LiabilityとGeneral Liabilityは違う保険ですか。
A. 呼び名の違いで、どちらも第三者への賠償責任の保険を指します。英国・オーストラリアなどではPublic Liability、米国ではGeneral Liability(CGL)と呼ぶのが一般的です。
Q. Hold Harmlessの条項があれば、保険で全部補償されますか。
A. 補償されるとは限りません。日本の賠償責任保険では、契約で特別に引き受けた責任によって重くなった賠償は対象外とされることが一般的です。契約書と保険の補償範囲を分けて確認します。
Q. 要求された限度額がドル建てです。円建ての保険でも大丈夫ですか。
A. 限度額を外貨換算で表示できるか、換算後に要求額へ届くかを確認します。届かない場合は限度額の引き上げを検討します。
Q. 日本国内の展示会でもCOIを求められることはありますか。
A. あります。海外の主催者が日本で開く展示会や学会では、英文のCOIを求められることがあります。要求文があれば、海外の展示会と同じように確認します。
Q. 要求された限度額が高すぎて、今の保険では届きません。
A. 米国ではUmbrellaやExcess Liabilityで上乗せするのが一般的ですが、日本から手配する保険では用意できないことがあります。その場合は限度額の引き上げなど、要求額に届く方法を探します。
Q. Workers' CompensationもCGLで足りますか。
A. 足りません。CGLは第三者への賠償の保険で、自社の従業員のけがは対象外です。Workers' CompensationやEmployer's Liabilityは別に手配を検討します。
Q. 学会や非営利の団体でも加入できますか。
A. ご相談いただけます。学会の事務局や非営利の団体からのご依頼もお受けしています。
9. ご相談と関連ページ
要求文(英文のまま)と、出展する展示会名・会期・出展内容を gbic@beam-rm.jp へお送りください。満たせる条件と、手当てが要る条件を整理してお返しします。