海外展示会や海外の取引先からCGL保険の証明書(COI)を求められたら|「いまの保険に特約を足せば足りる」が的外れな4つの理由

海外展示会に出展する。海外の取引先と販売代理店契約やOEMの供給契約を結ぶ。現地で設置やメンテナンスの作業をする。こうした場面で、相手方から「CGL保険の証明書(Certificate of Insurance、COI)を提出してください」という要求が届きます。

このとき多くの会社が最初にすることは、いま掛けている国内の賠償責任保険の代理店に電話することです。返ってくる答えはたいてい「海外での業務遂行を補償する特約が付けられます」。それで済んだと思って、証明書を相手方に送る。すると差し戻される。当センターにご相談が来るのは、この段階になってからが大半です。

はっきり申し上げます。いま掛けている保険にちょっとした特約を足せばカバーできる、という考えは的外れです。海外の相手方が求めているものと、その特約は、金額も中身も体制も別物です。この記事では、その理由を4つに分けて説明します。

CGL保険とは

CGL保険(Commercial General Liability Insurance)は、事業活動にともなって第三者に身体の障害や財物の損壊を与えた場合の賠償責任を、包括的に補償する保険です。米国を中心に、海外の企業間取引では「事業者なら当然入っているもの」として扱われ、契約書の保険条項(Insurance Requirements)や展示会の出展規約には、CGLの加入と証明書の提出が標準的に書かれています。

補償範囲やPL保険との違いを一から知りたい方は、先に「CGL保険とは?英文CGLの補償範囲・PL保険との違い・選び方」をお読みください。この記事は「証明書を求められた」その先に絞ります。

国内の賠償責任保険に付く「海外業務遂行」の特約とは

国内の損害保険会社の賠償責任保険には、海外出張や海外での短期の作業など、一時的な海外での業務遂行中に起きた対人・対物事故を補償する特約があります。海外に拠点を持たない会社が、年に数回の出張のために付けるものです。

「海外で何かあったときの最低限の備え」としては意味があります。ただしそれは、社員が出張先で誰かにケガをさせた、というような小さな事故を想定した備えです。海外の取引先や展示会主催者が要求文で求めているのは、それとはまったく違うものです。

理由1:限度額が1桁足りない

海外業務遂行の特約の支払限度額は、1事故あたり1,000万円程度の設定が多く見られます。

一方、海外展示会の出展規約や海外の取引先の保険条項が求める限度額は、1事故あたりUS$1,000,000(欧州ならEUR 1,000,000)以上が一般的です。日本円にすると1億5,000万円前後で、特約の限度額とは1桁違います。総額(General Aggregate)としてUS$2,000,000を指定されることも珍しくありません。

証明書に書かれた限度額が要求に届いていなければ、相手方はその時点で受け付けません。交渉の余地がほとんどない項目です。特約の限度額を「少し上げる」程度で届く差ではありません。

理由2:限度額を満たしても、付保要請の中身を満たせない

仮に限度額を引き上げられたとしても、要求文(付保要請)に書かれている条件は限度額だけではありません。よく見る項目を挙げます。

  • Additional Insured(追加被保険者)
    展示会の主催者や取引先を、貴社の保険の被保険者に加えること。相手方が巻き込まれた場合に、貴社の保険で守られるようにする項目です。要求文で最も見落とされやすく、最も差し戻しの原因になります。
  • Primary and Non-contributory
    貴社の保険を一次的に使い、相手方の保険は拠出しないことの明記。
  • Waiver of Subrogation(代位求償権の放棄)
    貴社の保険会社が保険金を払った後、相手方に求償しないことの約束。
  • Products-Completed Operations
    製品の引き渡し後、作業の完了後に起きた事故の補償。製品を輸出する会社、現地で設置や保守を行う会社には必ず付いてきます。
  • Certificate Holder/Notice of Cancellation
    証明書の宛先(相手方の正式な法人名と住所)と、保険が失効する場合の事前通知。

国内の特約には、これらを海外の相手方向けに付ける仕組みがありません。証明書の該当欄が空欄になり、相手方はそれを受け取れません。加えて、相手方が想定している証明書は、限度額・期間・被保険者・追加条件が所定の欄に並んだ英文の様式です。国内の保険証券の英訳文は、この様式に当てはまりません。

つまり、特約を足しても「証明書に書く材料」がそろわない。ここが、特約で済むという考えの最初の落とし穴です。

理由3:「海外展示会での事故は免責」の約款がある

当センターが実際に見た例です。海外での業務遂行中の対人・対物事故を1事故1億円まで補償する、という国内の賠償責任保険がありました。限度額だけを見れば、理由1はクリアしているように見えます。

ところが約款を読むと、海外の展示会・見本市での業務中に起きた事故は補償の対象外(免責)と書かれていました。出展のために保険を用意したつもりが、出展中の事故だけが外れていた、ということになります。

限度額の数字だけで判断せず、免責条項まで読む必要があります。展示会の出展規約が求めているのは、まさに出展中の事故に対する補償です。「1億円あるから大丈夫」は、約款を読まずに言っている言葉です。

理由4:海外の訴訟費用が出ない

海外で賠償請求を受けると、損害の賠償そのものの前に、弁護士費用など争いに要する費用が大きくなります。米国では、賠償額より弁護士費用のほうが大きくなる事案も珍しくありません。

国内の総合的な賠償責任保険は、一般に、海外で提起された訴訟の費用を補償の対象外(不担保)としています。海外業務遂行の特約を足しても、この部分は変わりません。弁護士費用が出ない、あるいは出ても足りない、という状態で海外の訴訟に向き合うことになります。

英文CGLは、保険会社が被保険者を訴訟から守る義務(防御義務)を持つ形が一般的で、相手方もそれを前提に限度額を指定しています。防御の扱いは保険の設計によって変わるため、要求文と約款の両方で確認します(詳しくは「防御義務」の記事をご覧ください)。

そして、防御義務は約款に書いてあるだけでは機能しません。海外で訴状が届いたとき、現地の弁護士を手配し、相手方や裁判所とやり取りするのは保険会社です。海外に拠点と損害調査の体制を持つグローバルカンパニーの保険会社でなければ、実際に動く手足がありません。保険会社と貴社の間に立つ代理店も同じです。海外からの請求書や訴状を受け取って、保険会社の海外の窓口に何をどの順番で渡すか、貴社が現地で何をしてはいけないか(安易な謝罪や合意をしない、書類を勝手に返送しないなど)を、その場で指示できる代理店でなければ、初動が遅れます。国内の自動車事故や火災の事故対応に慣れた代理店でも、海外の賠償対応は別の仕事です。

当センター(GBIC東京)は、海外の賠償対応に慣れた専門の窓口として、グローバルカンパニーの保険会社と組み、英文CGLの設計から証明書の発行、事故が起きた後の初動までを一つの窓口で行っています。特約を足しただけの国内の保険には、訴訟費用の補償も、この体制もありません。

4つをまとめると

限度額は1桁足りない。付保要請の中身は満たせない。展示会の事故が免責になっていることがある。海外の訴訟費用は出ず、対応する体制もない。

どれか一つが欠けているのではなく、四つとも欠けています。いま掛けている保険にちょっとした特約を足してカバーする、という発想は、要求文が求めているものを一つも満たしていません。相手方の要求に応えるには、英文CGLを最初から設計するしかありません。

英文CGLで証明書を用意するまでの流れ

当センターで行っている手順です。

  1. 要求文(出展規約の保険条項、契約書の保険条項、または相手方からのメール)を英語の原文のままお送りいただく
    和訳や要約からは、Additional Insuredのような条件が抜け落ちることがあります。
  2. 要求文を項目ごとに読み解き、満たすべき条件を一覧にする
    限度額、追加被保険者、一次性、代位求償の放棄、通知期間、証明書の宛先を確認します。要求が過大な場合は、相手方と交渉する余地があるかもご案内します。
  3. 英文CGL保険を設計する
    事業内容(輸出する製品、現地での作業の有無、契約相手の国、出展の回数)に合わせて、限度額と特約を決めます。年に1回の出展だけなら海外展示会向けの保険、出展以外にも海外の取引が続くなら事業全体を包む英文CGL、という分け方をします。
  4. 英文の付保証明書を発行する
    契約成立後、要求文の項目に沿った証明書を英文で発行します。当センターの実績では、契約成立から証明書のお渡しまで最短7営業日、相手方との条件の照合が入る場合で10営業日程度です。
  5. 更新時の再発行と、事故が起きたときの初動
    保険を更新するたびに証明書も新しくなります。契約期間中は切れ目なく提出できるよう、更新の時期を当センターで管理します。海外で事故や請求があったときは、当センターが最初の窓口になり、保険会社の海外の体制につなぎます。

出展の申込期限や契約書のサインの期限が迫っている場合は、要求文が手元に届いた時点でご連絡ください。要求文の読み解きと保険の設計を並行して進めます。

よくあるご質問

Q. いまの国内の賠償責任保険を解約する必要がありますか。
A. ありません。国内の取引に対しては国内の保険、海外の相手方との契約や出展に対しては英文CGL、と役割を分ける形が多いです。輸出の比率が高い会社では、英文CGLに国内分も含めて一本化することもあります。両方の契約内容を見て判断します。

Q. いまの代理店に「海外業務遂行の特約で大丈夫」と言われました。
A. その特約が要求文の項目(限度額・追加被保険者・免責・訴訟費用)をどう満たすのか、証明書の様式で示してもらってください。示せなければ、大丈夫ではありません。当センターに要求文と特約の約款をお送りいただければ、どこが足りないかをお返しします。

Q. 要求文に書かれた限度額は、そのまま契約しなければなりませんか。
A. 原則はそのまま満たします。取引の規模に対して明らかに過大な場合は、相手方と交渉して下げられることがあります。当センターでは、交渉の材料になる「よく見る水準」をご案内しています。

Q. 展示会の出展1回だけなら、英文CGLは大げさすぎませんか。
A. 出展1回だけであれば、海外展示会向けの保険で証明書を出す方法があります。出展が年に複数回ある、または展示会以外に海外の取引先との契約がある場合は、英文CGLのほうが結果的に手間も費用も抑えられます。海外展示会の保険については別のページで整理しています。

Q. 海外で事故が起きたら、まず何をすればよいですか。
A. 相手方に謝罪や合意をする前に、当センターにご連絡ください。現地で受け取った書類はそのまま保管し、返送や署名はしないでください。保険会社の海外の窓口への連絡と、現地の弁護士の手配は、当センターと保険会社で進めます。

Q. 証明書は日本語でも出せますか。
A. 相手方が海外である以上、英文で発行します。社内の稟議用に日本語の説明書きを添えることはできます。

まとめ

  • 海外の相手方からの「CGL保険の証明書を出してほしい」に、いまの保険の特約で応えようとするのは的外れです。限度額(1,000万円程度 対 US$1,000,000以上)、付保要請の中身(追加被保険者など)、免責(海外展示会での事故)、海外の訴訟費用(不担保・弁護士費用と防御の対応不足)の4点すべてで、要求と噛み合っていません。
  • 海外の賠償対応は、グローバルカンパニーの保険会社と、海外の賠償対応に慣れた専門の代理店の両方があって初めて回ります。
  • 要求文の英語原文を、そのままお送りください。読み解きから証明書の発行、事故のときの初動までを当センターが行います。
要求文をお送りください。満たせる項目・満たせない項目を整理してお返しします。
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  • このブログの記事は「若宮大志」が書きました。

    若宮大志

    平素、ご契約者様には弊社にて保険契約を賜り、誠にありがとうございます。また取引業者様におかれましても、弊社の業務運営において日頃多大なご支援をいただき感謝を申し上げます。

     さて昨今の大きな問題として、自然災害の増加、資源・物価高による保険金の増大、保険金の不正請求等にもより、お客様にお支払いいただく保険料の上昇が顕著となった1年間でした。また損保大手4社による企業カルテル問題では、大きなところでは政策保有株の原則禁止と表明されたり、小さな部分では他社証券の取得や満期更改情報の取得を制限すると表明されたりしましたが、実質的に保険業界の企業体質はなかなか変わらないことが危惧されます。また保険会社の営業職員や保険代理店社員がお客様の保険料を不正に流用したり、店主が顧客と結託し、保険金詐欺に加担していた事件も明るみとなりました。

     国も企業も、身を正すことができない大人たちが跋扈することによって、業界が成長しないばかりか市場における競争力が失われ続けていると感じます。それは国内のみならまだしも、グローバルで相対的に力を失っているのが一番大きな弊害だと感じるものです。

     私たち株式会社BEAMリスクマネージは、政府による指導や保険会社の改革を待つのではなく、高いレベルのコンプライアンス基準による業務遂行を通じ、日本を、世界をリードする最先端の保険コンサルティング会社を目指してまいります。引き続きのご指導、ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。


    2024年12月吉日
    株式会社BEAMリスクマネージ
    代表取締役 若宮 大志

     

    プロフィール

    若宮 大志(わかみや たいし)
    株式会社BEAMリスクマネージ 代表取締役
    海外ビジネス保険センター(GBIC東京)責任者

    保険業界での実務経験は13年。うち8年を海外ビジネス保険に専従しています。

    AIG損害保険株式会社に在籍したのち、2020年5月に株式会社BEAMリスクマネージを設立。同年8月にAIG損害保険を退職し、独立しました。

    国内の法人保険を手がける中で、海外に事業を広げようとする中小企業が「英文の証券が用意できない」「主催者から届いた英文の要求が読み解けない」という理由で、商談や出展を止めてしまう場面に何度も立ち会いました。保険が事業の足かせになっている——この状況を変えたいと考え、海外ビジネス保険に専門特化しています。

    現在も、AIG損害保険をはじめChubb損害保険、スター保険会社など、海外リスクの引受に強い保険会社を取り扱っています。

    専門領域

    • 海外展示会保険(主催者指定要件への対応、英文付保証明書の発行)
    • 英文CGL・PL保険(海外での賠償責任)
    • 外航貨物海上保険(輸出入貨物の輸送中・保管中)
    • 貿易保険
    • 取引信用保険(海外売掛債権の未回収リスク)
    • 海外リコール保険
    • 海外拠点を含むサイバー保険
    • グローバル保険プログラム(海外子会社を含む保険の一元管理)

    取扱保険会社:AIG損害保険、Chubb損害保険、スター保険会社

    保有資格

    • 損害保険トータルプランナー(日本損害保険協会)
    • 貿易実務検定

    対応実績

    独立以来の累計で、次の実績があります。

    • 海外展開を支援した企業(累計) …… 約150社
    • 海外展示会の保険手配(累計) …… 約180件
    • 対応した国・地域 …… 22カ国

    海外展示会の保険手配では、主催者が求める補償項目・補償限度額・追加被保険者(Additional Insured)の記載要件を確認したうえで保険を設計し、英文付保証明書(COI)を発行しています。

    英語対応

    英文証券および英文付保証明書(COI)の発行に対応しています。

    主催者から届く英文の出展要項を読み解き、「Commercial General Liability USD 1,000,000」「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」といった要求条件が日本のどの保険に対応するのかを確認したうえで手配します。

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