海外の建設・据付工事の保険|現地での業務遂行中の賠償責任と、設計・施工管理のミスに備える海外E&O

海外で建設工事や設備の据付を請け負う会社が、保険で備えるべき責任は大きく2つあります。1つは、現地での作業中に人にけがをさせたり、物を壊したりしたときの賠償責任(業務遂行リスク)。もう1つは、設計や施工管理のミスで、発注者にお金の損害を与えたときの責任(E&O)です。

どちらも国内の保険のままでは備えにくく、引受けの判断も難しい分野です。ただ、相談先と条件しだいで検討できる場合があります。この記事では、海外の建設・据付工事で問われる責任と、保険での備え方を整理します。

1. 海外の建設・据付工事で問われる2つの責任

業務遂行リスク(作業中の事故)E&O(業務のミス)
どんな損害か人のけが、物の損壊人のけがや物の損壊を伴わない、お金の損害
例クレーン作業中に隣の建物を壊した/通行人にけがをさせた/作業中に発注者の設備を壊した設計の誤りでやり直しになった/仕様の取り違えで設備が使えず、発注者の操業が止まった
主な備え英文CGL(海外の賠償責任保険)業務過誤賠償責任保険(E&O)

この2つは、補償の対象がまったく違います。一般的な賠償責任保険は人のけがと物の損壊が対象で、お金だけの損害は対象外になるのが基本です。

2. 業務遂行リスク:現地での作業中の事故

国内の請負業者向けの保険は、原則として国内の工事が対象です

国内の工事で使っている請負業者向けの賠償責任保険は、日本国内の工事を前提にしているのが一般的です。海外の工事は、対象外か、限度額や条件が足りないことがあります。海外の発注者や元請けからは、英文の賠償責任保険(英文CGL)の証明を求められることが多くあります。

見落としやすい「作業対象物」と「管理財物」

建設・据付の現場で起きやすいのに、通常の賠償責任保険では対象外になりやすいのが次の2つです。

  • 作業対象物の損害:据付や改修の対象になっている設備・建物そのものを、作業中に壊してしまった場合
  • 管理財物の損害:現場で預かっている資材や、借りている機材など、他人の物を壊した場合

どちらも、特約で補償を加えられるかを相談できます。現場で何を扱い、何を預かるかを最初に伺うのはこのためです。

完成した後の事故

工事が終わって引き渡した後に、施工の不具合が原因で事故が起きることもあります。英文CGLでは「製品・完成作業(Products-Completed Operations)」として、引き渡し後の事故への備えを確認します。

発注者・元請けから求められる条件

海外の工事契約には、保険の条件が細かく書かれていることがほとんどです。

  • 1事故あたり・保険期間中の支払限度額(Each Occurrence/General Aggregate)
  • 発注者・元請けを追加被保険者(Additional Insured)にすること
  • 求償権の放棄(Waiver of Subrogation)
  • 自社の保険から先に支払う優先支払い(Primary and Non-Contributory)
  • 現地で雇う作業員のけがに備える使用者賠償責任(Employer's Liability)
  • 工事の開始前に、英文の保険証明(COI)を提出すること

条件を一つでも満たしていない証明書は、差し戻しの原因になります。届いた条件は、訳さずにそのままお送りください。

3. 工事そのものの損害は、別の保険で備えます

建設中の建物や据え付けた設備そのものが、火災や事故で壊れた場合の損害は、賠償責任保険ではなく、工事そのものを対象にする保険(建設工事保険・組立保険など)で備えます。発注者や元請けがまとめて手配する場合や、工事のある国の決まりで現地の保険会社での手配が必要な場合(付保規制)もあります。誰がどの保険を手配するかは、工事契約の保険条項で確認します。

4. 海外E&O:設計・施工管理のミスに備える

E&Oが必要になる場面

  • 設計図の誤りで、工事のやり直しが必要になった
  • 仕様の取り違えで、納めた設備が予定どおりに動かず、発注者の操業開始が遅れた
  • 施工管理の指示の誤りで、工程が遅れ、発注者から損害を求められた

いずれも人のけがや物の損壊を伴わない損害で、英文CGLだけでは補償されません。

海外の建設分野のE&Oは、引受けが限られます

海外の建設・エンジニアリング分野のE&Oを単独の保険で引き受けるところは多くありません。一方で、賠償責任保険の特約としてE&Oを付け、その部分だけ支払限度額を小さく区切る形(サブリミット)で提供される場合があります。

サブリミットとは、保険全体の支払限度額とは別に、特定の補償にだけ設ける上限のことです。たとえば賠償責任全体の限度額が大きくても、E&Oの部分はそれより小さい上限になります。発注者が求めるE&Oの金額にサブリミットで届くかどうかを、契約の前に確認することが大切です。

契約書の補償条項にも注意

工事契約には、「工事に関する一切の請求について、請負者が発注者を補償する」といった補償条項(Indemnity/Hold Harmless)がよく入っています。保険が補償するのは原則として法律上の賠償責任で、契約で特に引き受けた責任までは補償されないことがあります。サインの前に、補償条項と保険の範囲を照らし合わせてください。

5. お見積りに必要な情報

  • 工事を行う国・場所と、工事の内容(建設・改修・設備の据付・試運転・保守など)
  • 自社の立場(元請け/下請け/据付・監督のみ など)
  • 請負金額と工期
  • 現地で作業する人数と、現地で雇う作業員の有無
  • 設計を自社で行うかどうか
  • 発注者・元請けとの契約書の保険条項と補償条項(訳さずに原文のまま)
  • いま加入している賠償責任保険の証券

6. よくあるご質問

国内の請負業者向けの賠償責任保険に入っています。海外の工事も対象になりますか

国内の工事を前提にしていることが多く、海外の工事は対象外か、条件が足りないことがあります。証券を拝見して確認します。

海外の工事は保険に入れないと言われました

海外の建設工事は引受けの判断が難しい分野ですが、工事の内容や国、自社の立場によっては検討できる場合があります。一度ご相談ください。

設計のミスによる損害も補償できますか

人のけがや物の損壊を伴わないお金の損害は、E&Oで備えます。海外の建設分野では、賠償責任保険の特約として、限度額を区切った形で付けられる場合があります。

現地法人が工事を請け負う場合はどうなりますか

工事のある国によっては、現地法人の保険は現地の保険会社で手配する決まり(付保規制)があります。日本側で備えられる範囲と、現地で手配する範囲を分けて組み立てます。

7. まとめ

海外の建設・据付工事では、作業中の事故(業務遂行リスク)と、設計・施工管理のミス(E&O)の両方に備える必要があります。英文CGLを土台に、作業対象物・管理財物、発注者から求められる条件、E&Oの特約まで、工事契約の内容に合わせて組み立てるのが近道です。

海外ビジネス保険センター(GBIC東京)では、工事契約の保険条項の読み解きから、英文CGLの手配、保険証明(COI)の発行までお手伝いします。工事契約の原文をそのままお送りください。

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  • このブログの記事は「若宮大志」が書きました。

    若宮大志

    平素、ご契約者様には弊社にて保険契約を賜り、誠にありがとうございます。また取引業者様におかれましても、弊社の業務運営において日頃多大なご支援をいただき感謝を申し上げます。

     さて昨今の大きな問題として、自然災害の増加、資源・物価高による保険金の増大、保険金の不正請求等にもより、お客様にお支払いいただく保険料の上昇が顕著となった1年間でした。また損保大手4社による企業カルテル問題では、大きなところでは政策保有株の原則禁止と表明されたり、小さな部分では他社証券の取得や満期更改情報の取得を制限すると表明されたりしましたが、実質的に保険業界の企業体質はなかなか変わらないことが危惧されます。また保険会社の営業職員や保険代理店社員がお客様の保険料を不正に流用したり、店主が顧客と結託し、保険金詐欺に加担していた事件も明るみとなりました。

     国も企業も、身を正すことができない大人たちが跋扈することによって、業界が成長しないばかりか市場における競争力が失われ続けていると感じます。それは国内のみならまだしも、グローバルで相対的に力を失っているのが一番大きな弊害だと感じるものです。

     私たち株式会社BEAMリスクマネージは、政府による指導や保険会社の改革を待つのではなく、高いレベルのコンプライアンス基準による業務遂行を通じ、日本を、世界をリードする最先端の保険コンサルティング会社を目指してまいります。引き続きのご指導、ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。


    2024年12月吉日
    株式会社BEAMリスクマネージ
    代表取締役 若宮 大志

     

    プロフィール

    若宮 大志(わかみや たいし)
    株式会社BEAMリスクマネージ 代表取締役
    海外ビジネス保険センター(GBIC東京)責任者

    外資系保険会社勤務10年超を経て独立し、海外ビジネス保険を専門に扱っています。

    AIG損害保険株式会社に在籍したのち、2020年5月に株式会社BEAMリスクマネージを設立。同年8月にAIG損害保険を退職し、独立しました。

    国内の法人保険を手がける中で、海外に事業を広げようとする中小企業が「英文の証券が用意できない」「主催者から届いた英文の要求が読み解けない」という理由で、商談や出展を止めてしまう場面に何度も立ち会いました。保険が事業の足かせになっている——この状況を変えたいと考え、海外ビジネス保険に専門特化しています。

    現在も、AIG損害保険をはじめChubb損害保険、スター保険会社など、海外リスクの引受に強い保険会社を取り扱っています。

    専門領域

    • 海外展示会保険(主催者指定要件への対応、英文付保証明書の発行)
    • 英文CGL・PL保険(海外での賠償責任)
    • 外航貨物海上保険(輸出入貨物の輸送中・保管中)
    • 貿易保険
    • 取引信用保険(海外売掛債権の未回収リスク)
    • 海外リコール保険
    • 海外拠点を含むサイバー保険
    • グローバル保険プログラム(海外子会社を含む保険の一元管理)

    取扱保険会社:AIG損害保険、Chubb損害保険、スター保険会社

    保有資格

    • 損害保険トータルプランナー(日本損害保険協会)
    • 貿易実務検定

    対応実績

    これまでに、次のような先からご相談をいただいています。

    • 東証プライム上場企業
    • 大手グループの子会社
    • 大学・国立研究機関・学会
    • 海外へ販路を広げる中小企業・メーカー

    2026年10月、ジェトロ(日本貿易振興機構)Webサイトの「JS LINKS」に掲載されました。

    海外展示会の保険手配では、主催者が求める補償項目・補償限度額・追加被保険者(Additional Insured)の記載要件を確認したうえで保険を設計し、英文付保証明書(COI)を発行しています。

    英語対応

    英文証券および英文付保証明書(COI)の発行に対応しています。

    主催者から届く英文の出展要項を読み解き、「Commercial General Liability USD 1,000,000」「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」といった要求条件が日本のどの保険に対応するのかを確認したうえで手配します。

    出展要項をそのままお送りいただければ、こちらで内容を確認します。

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