アメリカに輸出する製品のPL保険|訴えられる範囲・取引先の保険条件・準備の順番

アメリカに製品を輸出するとき、PL保険(生産物賠償責任保険)は「日本と同じ感覚」では足りないことがあります。裁判になりやすく、裁判の費用が大きくなりやすいうえに、取引先からは保険の条件が細かく指定されるからです。

この記事では、アメリカ向けの輸出で押さえておきたいPL保険の考え方を、訴えられる範囲、取引先から届く保険の条件、契約書の注意点、準備の順番に分けて解説します。

要点は3つです。

  1. アメリカでは賠償金だけでなく、裁判に対応する費用への備えが大切です。こちらに落ち度がなくても、対応の費用はかかります。
  2. 事故が起きると、作った会社から売った店まで、製品に関わった会社がまとめて訴えられることがあります。そのため取引先は、CGL保険、限度額、Additional Insured、証明書(COI)を細かく求めてきます。
  3. 保険を選ぶ前に、取引先の契約書の保険条項と補償条項を読んでください。そこで必要な保険がほぼ決まります。

1. アメリカ向けのPL保険が特別と言われる理由

アメリカは「訴訟社会」と言われます。PL保険の考え方に関わるのは、次の3点です。

裁判になりやすい

ケガをした人が弁護士に相談し、そのまま訴訟になるまでの距離が、日本よりも近いと言われます。成功報酬で引き受ける弁護士も多く、請求する側の負担が小さいことも背景にあります。

裁判の費用が大きくなりやすい

訴えられたら、こちらに落ち度がないと考えていても対応しなければなりません。事故の原因を調べる、相手の主張に反論する、裁判所に書類を出す。そのたびに弁護士の費用が積み上がります。結果的に責任がなかったとしても、ここまでの費用はかかります。

結果の幅が読みにくい

民事の裁判に陪審員が関わることがあり、同じような事故でも結論の幅が大きくなりがちです。懲罰的損害賠償という制度もあります。

多くの方は「賠償金が高い」ことを心配されます。それも事実ですが、実務でまず効いてくるのは、裁判に対応する費用です。保険を選ぶときは「負けたときに払ってくれるか」だけでなく、「訴えられたときに対応してくれるか」を確かめてください。

どの州で訴えられるかで、結果が変わる

アメリカのPL(製造物責任)は、国の法律ではなく、主に州ごとの法律で決まります。責任の考え方、賠償の上限、懲罰的損害賠償の扱い、陪審の傾向は、州によって違います。

そのため、訴える側は、裁判を起こせる州が複数あるときに、自分たちに最も有利な州を選んで訴えることがあります(フォーラム・ショッピングと呼ばれます)。事故が起きた州だけでなく、製品が売られていた州や、取引先の本拠地の州で訴えられることもあります。

日本の会社をその州の裁判所で訴えられるかどうかは、その州とのつながり(その州に向けて販売していたか、など)で判断されます。ただ、販売代理店やECを通じてアメリカ全土に製品が届いている場合は、多くの州で訴えられうると考えておくべきです。

保険を選ぶときは、「アメリカのどの州で訴えられても対応できるか」を確認してください。補償の対象になる地域や、裁判を起こされた場所の扱いは、証券や約款の書き方で決まります。

裁判の費用は限度額の「中」か「外」か

保険によっては、裁判の費用(防御費用)が支払限度額の中から払われる形と、限度額とは別に払われる形があります。中から払われる形だと、弁護士の費用がかさむほど、賠償に使える分が減っていきます。アメリカ向けでは、この違いが効いてくることがあります。証券と約款の書き方で確認します。

2. 事故が起きたら誰が訴えられるか

アメリカでは、製品で事故が起きると、その製品に関わった会社がまとめて訴えられることがあります。

立場 訴えられる可能性 よくある思い込み
製品を作った会社(日本のメーカー) あります。原因をつくった側として中心になります 「輸出先の会社が対応してくれる」
輸入した会社 あります —
卸・販売代理店 あります —
売った店・ECの販売者 あります 「売っただけだから関係ない」
部品を納めた会社 完成品メーカーから求償されることがあります 「直接売っていないから関係ない」

訴える側は、どこに責任があるか分からない段階で、関わった会社を並べて訴えることがあります。アメリカの販売店や輸入者から見ると、「自分たちは作っていないのに巻き込まれるかもしれない」。これが、取引先が保険の条件を細かく指定してくる理由です。

「輸入者が保険に入っているから大丈夫」ではない

輸入者の保険が守るのは、基本的に輸入者です。しかも、輸入者の保険会社が賠償を払ったあと、原因が日本のメーカーの製品だとなれば、メーカーに「払った分を返してほしい」と求めてくることがあります(求償)。相手が保険に入っていることは、こちらの保険が要らない理由にはなりません。

部品メーカーも関係します

自社の部品が、よその会社の完成品に組み込まれてアメリカに出ている場合も同じです。完成品のメーカーが訴えられ、原因が部品だと分かれば、部品メーカーに求償が来ることがあります。

3. 取引先から届く「保険の条件」

アメリカの取引先や販売店と契約するとき、契約書や取引条件に保険の条項が入っていることがよくあります。代表的なものは次のとおりです。

CGL保険に入っていること

アメリカの会社は、相手の保険を「CGL(Commercial General Liability)」という形で確認するのが一般的です。製品の事故だけならPL保険でもよいのでは、と思われるかもしれませんが、相手のチェック欄は「CGL」です。CGLとPL保険の違いは「CGL保険とは?英文CGL完全ガイド」で解説しています。

支払限度額

「1事故あたりいくら以上」「保険期間中の合計でいくら以上」と指定されます。製品の事故の合計(Products-Completed Operations Aggregate)を別に指定されることもあります。

Additional Insured(追加被保険者)

取引先を、御社の保険で守られる人に加えてほしい、という条件です。販売店向けには、Vendors(売った店)を守る特約という形で求められることもあります。「作っていないのに訴えられる」ことへの備えです。

証明書(COI)

保険に入っていることを示す英文の証明書(Certificate of Insurance)の提出です。契約の更新のたびに、新しい証明書を求められることもあります。

要求文に並ぶ用語の意味は「Additional Insured・Waiver of Subrogationとは|英文COIの要求文に出る用語集」で一つずつ解説しています。

これらの条件を満たせないと、取引が始まらないこともあります。保険の手配と証明書の発行には時間がかかるため、契約の話が出た段階でご相談ください。

4. 契約書の「補償します」条項に注意

保険の条項の近くに、Indemnity(補償)や Hold Harmless(免責)と書かれた条項が置かれていることがよくあります。おおまかには「御社の製品が原因で私たちに損害が出たら、御社がそれを補償します」という約束です。

この約束にサインすると、契約によって引き受けた責任が生まれます。問題は、その範囲が保険の補償範囲と一致するとは限らないことです。日本の賠償責任保険では、契約で特別に引き受けた責任によって重くなった部分は、補償の対象外とされることが一般的です。

つまり、契約書では広く約束しているのに、保険はそこまで見ない、というずれが起こりえます。契約書にサインする前に、保険の条項と補償の条項を、今の保険と突き合わせてください。サインした後では、直せることが限られます。

5. 売り方で変わる備え方

アメリカへの売り方によって、確認するところが変わります。

売り方 確認すること
アメリカの顧客に直接販売 作った会社であり売った会社でもあるため、請求が直接来ます。裁判の対応まで含めた補償と限度額を確認します
輸入者・販売代理店経由 契約書の保険条項(CGL、限度額、Additional Insured、COI)と補償条項を確認します
部品として納入 完成品メーカーからの求償に備えられているかを確認します
アメリカのECサイトで販売 売り先がアメリカ全土に広がります。サイトによっては、売上などの条件で出品者に賠償責任保険への加入と証明を求める仕組みがあるため、利用中のサイトの最新の規約を確認します

6. 準備の順番

アメリカ向けの輸出が決まったら、次の順番で進めてください。

  1. 今のPL保険の証券を見て、アメリカが補償の対象に入っているかを確認する。入っている場合も、裁判の費用がどこまで出るか、限度額が足りるかを確認する
  2. 取引先の契約書に、保険の条項と補償の条項があるかを確認する。あれば原文のまま手元に置く
  3. 足りない部分を、海外PL保険か英文CGLで埋める
  4. 証明書(COI)が必要なら、提出期限から逆算して手配する

いちばん大切なのは2つ目を先にすることです。保険を先に決めてしまい、後から「CGLでなければだめ」「当社をAdditional Insuredに入れてほしい」と言われるのが、最も手間のかかるパターンです。

国内のPL保険に海外の特約を付ける方法、海外PL保険、英文CGLの違いは「海外PL保険とは|補償範囲・国内PLの海外特約との違い・輸出形態別の選び方」で解説しています。

7. 当センターに寄せられたご相談から

社名は伏せて、アメリカ向けの輸出でよくあるご相談をご紹介します。

北米向けのスポーツ用品

使っている最中のケガが請求につながりやすい製品です。裁判の対応を前提に、補償の範囲と限度額を組み立てました。

販売代理店から保険条項つきの契約書が届いた

契約書に、CGL、限度額、Additional Insured、証明書の提出が並んでいました。今の保険では証明書の欄が埋まらず、条件に合う形で手配し直しました。

部品として納めた製品が完成品に組み込まれていた

国内の保険を見直す中で、アメリカに出ている完成品のメーカーからの求償に備えがないことが分かりました。

8. よくあるご質問

Q. アメリカへの輸出がまだ少ないのですが、PL保険は必要ですか。
A. 量が少なくても、事故が起きれば訴えられる可能性はあります。保険料は売上なども見て決まるため、輸出が少ないうちに手当てしておくほうが考えやすいこともあります。

Q. 現地の輸入者が保険に入っていれば、当社は不要ですか。
A. 不要とは言えません。輸入者の保険が守るのは基本的に輸入者です。輸入者の保険会社から、原因をつくった会社として求償されることもあります。

Q. 取引先からCGL保険を求められました。PL保険では代わりになりませんか。
A. 中身が一部重なっても、相手が確認するのは「CGL」という形の保険と、その証明書です。PL保険の証券では相手の条件を満たせないことが多いため、要求文を見て判断します。

Q. 取引先がある州だけで販売しています。ほかの州で訴えられることはありますか。
A. ありえます。製品が使われた場所や、流通の経路によっては、販売していない州で訴えられることもあります。訴える側は有利な州を選ぼうとするため、販売先の州だけを前提にせず、アメリカ全体での対応を確認してください。

Q. サンプルを送るだけでも関係ありますか。
A. 関係します。サンプルを渡した先で事故が起きれば、製品の賠償の話になります。展示会に置く場合は、展示会の賠償の話にもなります。

Q. すでに取引が始まっていて、保険がありません。
A. 今からでも動いてください。すでに出荷した分の事故をどう扱うかは、保険の契約の形によって変わります。いつから、何を、どれくらい出荷しているかを含めてお知らせください。

9. ご相談と関連ページ

製品の説明、アメリカでの売上の見込み、売り方(直接・代理店経由・部品・EC)、取引先の契約書の保険条項と補償条項(英文のままで結構です)を gbic@beam-rm.jp へお送りください。必要な保険と、手当てが要るところを整理してお返しします。

関連ページ

  • このブログの記事は「若宮大志」が書きました。

    若宮大志

    平素、ご契約者様には弊社にて保険契約を賜り、誠にありがとうございます。また取引業者様におかれましても、弊社の業務運営において日頃多大なご支援をいただき感謝を申し上げます。

     さて昨今の大きな問題として、自然災害の増加、資源・物価高による保険金の増大、保険金の不正請求等にもより、お客様にお支払いいただく保険料の上昇が顕著となった1年間でした。また損保大手4社による企業カルテル問題では、大きなところでは政策保有株の原則禁止と表明されたり、小さな部分では他社証券の取得や満期更改情報の取得を制限すると表明されたりしましたが、実質的に保険業界の企業体質はなかなか変わらないことが危惧されます。また保険会社の営業職員や保険代理店社員がお客様の保険料を不正に流用したり、店主が顧客と結託し、保険金詐欺に加担していた事件も明るみとなりました。

     国も企業も、身を正すことができない大人たちが跋扈することによって、業界が成長しないばかりか市場における競争力が失われ続けていると感じます。それは国内のみならまだしも、グローバルで相対的に力を失っているのが一番大きな弊害だと感じるものです。

     私たち株式会社BEAMリスクマネージは、政府による指導や保険会社の改革を待つのではなく、高いレベルのコンプライアンス基準による業務遂行を通じ、日本を、世界をリードする最先端の保険コンサルティング会社を目指してまいります。引き続きのご指導、ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。


    2024年12月吉日
    株式会社BEAMリスクマネージ
    代表取締役 若宮 大志

     

    プロフィール

    若宮 大志(わかみや たいし)
    株式会社BEAMリスクマネージ 代表取締役
    海外ビジネス保険センター(GBIC東京)責任者

    保険業界での実務経験は13年。うち8年を海外ビジネス保険に専従しています。

    AIG損害保険株式会社に在籍したのち、2020年5月に株式会社BEAMリスクマネージを設立。同年8月にAIG損害保険を退職し、独立しました。

    国内の法人保険を手がける中で、海外に事業を広げようとする中小企業が「英文の証券が用意できない」「主催者から届いた英文の要求が読み解けない」という理由で、商談や出展を止めてしまう場面に何度も立ち会いました。保険が事業の足かせになっている——この状況を変えたいと考え、海外ビジネス保険に専門特化しています。

    現在も、AIG損害保険をはじめChubb損害保険、スター保険会社など、海外リスクの引受に強い保険会社を取り扱っています。

    専門領域

    • 海外展示会保険(主催者指定要件への対応、英文付保証明書の発行)
    • 英文CGL・PL保険(海外での賠償責任)
    • 外航貨物海上保険(輸出入貨物の輸送中・保管中)
    • 貿易保険
    • 取引信用保険(海外売掛債権の未回収リスク)
    • 海外リコール保険
    • 海外拠点を含むサイバー保険
    • グローバル保険プログラム(海外子会社を含む保険の一元管理)

    取扱保険会社:AIG損害保険、Chubb損害保険、スター保険会社

    保有資格

    • 損害保険トータルプランナー(日本損害保険協会)
    • 貿易実務検定

    対応実績

    独立以来の累計で、次の実績があります。

    • 海外展開を支援した企業(累計) …… 約150社
    • 海外展示会の保険手配(累計) …… 約180件
    • 対応した国・地域 …… 22カ国

    海外展示会の保険手配では、主催者が求める補償項目・補償限度額・追加被保険者(Additional Insured)の記載要件を確認したうえで保険を設計し、英文付保証明書(COI)を発行しています。

    英語対応

    英文証券および英文付保証明書(COI)の発行に対応しています。

    主催者から届く英文の出展要項を読み解き、「Commercial General Liability USD 1,000,000」「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」といった要求条件が日本のどの保険に対応するのかを確認したうえで手配します。

    出展要項をそのままお送りいただければ、こちらで内容を確認します。

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