海外取引の契約書にある補償条項(Hold Harmless)と海外PL保険|契約で引き受けた賠償責任はどこまで補償されるか

海外の販売店や輸入元と取引を始めるとき、英文の契約書に次のような条項が入っていることがあります。

Seller shall indemnify, defend and hold harmless Buyer from and against any and all claims, losses and expenses arising out of the Products.

おおまかに言えば、「製品が原因で買主が第三者から請求を受けたら、売主がその損害を負担し、対応(防御)も引き受ける」という約束です。

サインする前に確かめておきたいのは、この約束を果たすためのお金を、自社の海外PL保険が出してくれるかどうかです。結論から言うと、「法律上もともと負う責任」の部分は出ますが、「契約で上乗せした責任」の部分は、保険の種類と約款によって出る場合と出ない場合があります。

この記事では、補償条項で引き受けた賠償責任が保険でどう扱われるかを、英文CGLと国内の保険会社の約款の両面から整理します。

1. 補償条項(Hold Harmless/Indemnity)とは

補償条項は、取引の一方が、相手方に生じた損害や請求の負担を引き受けることを約束する条項です。英文の契約書では、次の3つの動詞が並んで使われることが多いです。

  • indemnify:相手方が負った損害を埋め合わせる
  • defend:相手方が訴えられたときの対応(弁護士の手配や費用)を引き受ける
  • hold harmless:相手方に損害を負わせないようにする

製品の取引でこの条項が求められるのは、海外、特に米国では、製品で事故が起きると、製造者だけでなく販売店や輸入者も訴えられることが多いためです。販売店は、訴えられたときの負担を製品の供給元に回すために、契約書に補償条項を入れてきます。

2. 保険から見ると、責任は2種類に分かれる

補償条項で負う責任は、保険の目で見ると2つに分かれます。

1. 法律上の責任(契約がなくても負う責任)

製品の欠陥で第三者がケガをすれば、製造者や輸出者は契約の有無にかかわらず賠償責任を負います。海外PL保険が本来補償するのは、この責任です。

2. 契約上の責任(契約で引き受けた、他人の責任)

たとえば販売店の保管や説明の不備が事故に重なっていた場合、その販売店自身の責任の部分まで売主が負担すると約束していれば、それは契約がなければ負わなかった責任です。保険での扱いが分かれるのは、この部分です。

3. 英文CGLの考え方:契約で引き受けた「他人の不法行為責任」は補償の対象

米国の標準的なCGL(Commercial General Liability)の約款では、契約で引き受けた責任は原則として免責です。ただし例外があり、「被保険契約(insured contract)」で引き受けた責任は補償の対象になります。

被保険契約には、建物の賃貸借のような定型的な契約に加えて、「事業に関する契約で、第三者の身体障害や財物損壊について、他人の不法行為責任を引き受けたもの」が含まれます。製品の取引で入る補償条項は、多くの場合ここに当たります。

この「事業上の契約で引き受けた責任まで広く補償する」考え方は、かつては Broad Form Contractual Liability(拡張契約責任担保)と呼ばれ、1986年の約款改定より前は特約で付け足すものでした。現在の標準の約款では本体に組み込まれています。

ただし、次の2点には注意が必要です。

  • 証券によっては、契約上の責任の範囲を狭める特約が付いていることがあります。標準の約款に入っているから大丈夫、とは言い切れません。証券に付いている特約まで確認します。
  • 補償条項に基づいて負担する相手方の防御費用(弁護士費用など)は、一定の条件のもとで補償の対象になります。それが保険金の限度額の内側で払われるのか、外側で払われるのかは、約款と設定の仕方によります。

4. 国内の保険会社の海外PL:「約定によって加重された責任」の免責

国内の保険会社の賠償責任保険の約款の多くには、「被保険者と第三者との間に損害賠償に関する特別の約定がある場合、その約定によって加重された損害賠償責任」を補償しないという免責が置かれています。

国内のPL保険に海外の特約を付けた形や、国内の保険会社の海外PL保険でも、同じ考え方の免責が置かれていることが少なくありません。この場合、次のような分かれ方になります。

  • 製品の欠陥による、法律上の責任の部分:補償の対象
  • 補償条項で上乗せして引き受けた部分:補償されない

商品によっては契約上の責任を補償する条件を設定できるものもありますが、引受の可否は保険会社と商品によって異なります。

つまり、販売店から補償条項付きの契約書が届いたときは、「海外PLに入っているから大丈夫」ではなく、「その海外PLの約款が契約上の責任をどう扱っているか」を確かめる必要があります。

5. 保険では補償されない約束もある

補償条項が広く書かれていると、どの保険でも補償できない約束まで含まれていることがあります。代表的なものは次のとおりです。

  • 契約違反や保証違反(品質・性能・納期)による損失
  • 製品そのものの修理・交換の費用や、回収(リコール)の費用
  • 知的財産権の侵害に関する請求
  • 罰金や制裁的な賠償(国・地域と約款によって扱いが異なります)

また、相手方自身の過失だけで起きた事故まで負担する書き方になっている場合、米国の州によっては、法律でその条項の効力が制限されていることがあります。保険で受けられるかどうかとあわせて、契約書の文言は弁護士にご確認ください。

6. 追加被保険者(Additional Insured)との違い

販売店は、補償条項と一緒に「当社を追加被保険者として保険に加えること」を求めてくることがよくあります。この2つは似ていますが、仕組みが違います。

  • 補償条項:売主が販売店に損害を負担すると約束する。保険が補償するのは、その約束を負った売主の責任。
  • 追加被保険者:販売店自身が、売主の保険の被保険者になる。販売店は保険に直接請求できる立場になる。

製品の販売店を追加被保険者にする形は、米国では販売者向け(Vendors)の追加被保険者と呼ばれます。両方を求められたら両方を設計し、英文の付保証明書(COI)にその旨を記載して提出します。限度額だけを合わせても、要求を満たしたことにはなりません。

7. 契約書にサインする前に確かめたい5つのこと

1. 補償の対象が「第三者の身体障害・財物損壊」に絞られているか

「any and all claims, losses」のように、契約違反や損失一般まで含む書き方になっていないかを見ます。

2. 相手方自身の過失の部分まで負担する書き方になっていないか

「自社の製品の欠陥に起因する範囲で」と絞れるかどうかが、交渉のポイントになります。

3. defend(防御)の約束があるか、防御費用が保険でどう払われるか

防御費用が限度額の内側で払われる設定だと、訴訟が長引くほど賠償に使える枠が減ります。

4. 求められている保険の条件

限度額、追加被保険者、一次性(Primary and Non-contributory)、代位求償の放棄(Waiver of Subrogation)、保険会社の格付けなど。補償条項とは別に「保険条項(Insurance)」として書かれていることが多いので、両方を読みます。

5. 自社の保険が契約上の責任をどう扱っているか

約定によって加重された責任の免責があるか、契約上の責任を狭める特約が付いていないかを、約款と証券で確認します。

8. 当センターでご相談の多い製品

当センターでは、次のような製品・販売の形で海外PLのご相談をいただいています。販売店や流通の相手方から、保険の証明と一緒に契約書の条件を示されて、ご相談に来られる方も少なくありません。

  • 機械部品(東南アジア向け)
  • サーフボード(北米向け)
  • お酒(ヨーロッパ・北米向け)
  • 鍵製品(北米・ヨーロッパ向け)
  • 医薬部外品(東南アジア向け)
  • 海外のECサイトでの販売(各国向け)

契約書の補償条項と保険条項をお送りいただければ、保険で受けられる部分、受けられない部分、交渉で直したほうがよい部分を整理してお返しします。

9. よくあるご質問

Q. 補償条項は削ってもらったほうがよいのですか。
A. 取引の条件として求められている場合、削除は難しいことが多いです。「第三者の身体障害・財物損壊に限る」「自社の製品の欠陥に起因する範囲に限る」など、範囲を絞る交渉のほうが現実的です。契約書の文言は弁護士にご確認ください。
Q. 国内のPL保険に海外の特約を付けていれば足りますか。
A. 製品の欠陥による法律上の責任は対象になりますが、補償条項で上乗せした責任、追加被保険者、英文の証明書といった要求を満たせないことがあります。違いは「海外PL保険とは」の記事にまとめています。
Q. 相手方の弁護士費用も保険から出ますか。
A. 補償条項に基づいて負担する相手方の防御費用が補償の対象になるかどうか、なる場合に限度額の内側か外側かは、約款と設定の仕方によります。契約の前に確認しておくべき点です。
Q. 契約書を見てもらうだけでも相談できますか。
A. できます。補償条項と保険条項をお送りいただければ、満たせる項目、満たせない項目、交渉が要る項目に分けてお返しします。そのうえで進めるかどうかをご判断ください。

10. まとめ

  • 補償条項(Hold Harmless/Indemnity)で負う責任は、「法律上もともと負う責任」と「契約で上乗せして引き受けた責任」に分かれます。
  • 英文CGLでは、事業上の契約で引き受けた他人の不法行為責任は補償の対象です(かつての Broad Form Contractual Liability)。ただし証券の特約で狭められていないかを確認します。
  • 国内の保険会社の海外PLでは、約定によって加重された責任が免責になっていることが多く、上乗せ部分は補償されない場合があります。
  • 契約違反、製品そのものの損害、リコール、知的財産権の侵害は、どの保険でも補償されません。
  • サインの前に、補償の範囲、防御費用の扱い、保険条項、自社の約款の4つを照らし合わせてください。

11. 関連ページ

※この記事は、賠償責任保険の考え方の概要をご説明したものです。実際に補償される範囲は、ご契約いただく保険会社の約款および証券の記載によります。契約書の解釈については弁護士にご確認ください。

  • このブログの記事は「若宮大志」が書きました。

    若宮大志

    平素、ご契約者様には弊社にて保険契約を賜り、誠にありがとうございます。また取引業者様におかれましても、弊社の業務運営において日頃多大なご支援をいただき感謝を申し上げます。

     さて昨今の大きな問題として、自然災害の増加、資源・物価高による保険金の増大、保険金の不正請求等にもより、お客様にお支払いいただく保険料の上昇が顕著となった1年間でした。また損保大手4社による企業カルテル問題では、大きなところでは政策保有株の原則禁止と表明されたり、小さな部分では他社証券の取得や満期更改情報の取得を制限すると表明されたりしましたが、実質的に保険業界の企業体質はなかなか変わらないことが危惧されます。また保険会社の営業職員や保険代理店社員がお客様の保険料を不正に流用したり、店主が顧客と結託し、保険金詐欺に加担していた事件も明るみとなりました。

     国も企業も、身を正すことができない大人たちが跋扈することによって、業界が成長しないばかりか市場における競争力が失われ続けていると感じます。それは国内のみならまだしも、グローバルで相対的に力を失っているのが一番大きな弊害だと感じるものです。

     私たち株式会社BEAMリスクマネージは、政府による指導や保険会社の改革を待つのではなく、高いレベルのコンプライアンス基準による業務遂行を通じ、日本を、世界をリードする最先端の保険コンサルティング会社を目指してまいります。引き続きのご指導、ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。


    2024年12月吉日
    株式会社BEAMリスクマネージ
    代表取締役 若宮 大志

     

    プロフィール

    若宮 大志(わかみや たいし)
    株式会社BEAMリスクマネージ 代表取締役
    海外ビジネス保険センター(GBIC東京)責任者

    保険業界での実務経験は13年。うち8年を海外ビジネス保険に専従しています。

    AIG損害保険株式会社に在籍したのち、2020年5月に株式会社BEAMリスクマネージを設立。同年8月にAIG損害保険を退職し、独立しました。

    国内の法人保険を手がける中で、海外に事業を広げようとする中小企業が「英文の証券が用意できない」「主催者から届いた英文の要求が読み解けない」という理由で、商談や出展を止めてしまう場面に何度も立ち会いました。保険が事業の足かせになっている——この状況を変えたいと考え、海外ビジネス保険に専門特化しています。

    現在も、AIG損害保険をはじめChubb損害保険、スター保険会社など、海外リスクの引受に強い保険会社を取り扱っています。

    専門領域

    • 海外展示会保険(主催者指定要件への対応、英文付保証明書の発行)
    • 英文CGL・PL保険(海外での賠償責任)
    • 外航貨物海上保険(輸出入貨物の輸送中・保管中)
    • 貿易保険
    • 取引信用保険(海外売掛債権の未回収リスク)
    • 海外リコール保険
    • 海外拠点を含むサイバー保険
    • グローバル保険プログラム(海外子会社を含む保険の一元管理)

    取扱保険会社:AIG損害保険、Chubb損害保険、スター保険会社

    保有資格

    • 損害保険トータルプランナー(日本損害保険協会)
    • 貿易実務検定

    対応実績

    独立以来の累計で、次の実績があります。

    • 海外展開を支援した企業(累計) …… 約150社
    • 海外展示会の保険手配(累計) …… 約180件
    • 対応した国・地域 …… 22カ国

    海外展示会の保険手配では、主催者が求める補償項目・補償限度額・追加被保険者(Additional Insured)の記載要件を確認したうえで保険を設計し、英文付保証明書(COI)を発行しています。

    英語対応

    英文証券および英文付保証明書(COI)の発行に対応しています。

    主催者から届く英文の出展要項を読み解き、「Commercial General Liability USD 1,000,000」「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」といった要求条件が日本のどの保険に対応するのかを確認したうえで手配します。

    出展要項をそのままお送りいただければ、こちらで内容を確認します。

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