海外取引を早く前に進めるために|契約で引き受ける賠償責任(Contractual Liability)の引受けと、時間がかかる理由・早めの準備

最終更新:2026年10月30日

海外の販売店や代理店、完成品メーカーとの取引では、英文の契約書が先に届き、そこで初めて「この条件で保険に入れるか」をご相談いただく、という順番が多く見られます。

ところが、契約書の中の賠償や保証の約束は、保険で補償されるものと、されないものがはっきり分かれます。サインしたあとでは、補償されない約束を取り消すことはできません。

本来いちばん良いのは、保険で引き受けられるかどうかを分かったうえで、契約を結ぶことです。特に米国の取引先は、自社(米国法人)にリスクが残らないよう、補償条項を広く、保険の条件を厳しく書いた契約書を出してくることが少なくありません。保険で受けられない約束を知らずにサインすれば、その分はそのまま自社の負担になります。

取引先が求める賠償の約束まで保険で引き受けられれば、「保険はどうなっていますか」で止まっていた取引が一気に進みます。ただ、契約で引き受ける賠償責任(Contractual Liability)の引受けは、保険会社にとって判断が難しく、回答までに時間がかかることが少なくありません。

この記事では、保険会社が引受けのときに契約書のどこを確かめるのか、なぜ時間がかかるのか、取引を止めないために何を早めに準備すればよいのかを、海外取引を進める立場から整理します。

補償条項そのものの仕組みは、海外取引の契約書にある補償条項(Hold Harmless)と海外PL保険で解説しています。

1. 保険会社は「契約がなくても負う責任」かどうかで分ける

賠償責任保険が補償するのは、原則として「法律上の損害賠償責任」です。契約で約束したことによって初めて生まれる責任や、法律上の責任より重くなった部分は、補償の外になるのが基本です。

  • 契約がなくても、製品の欠陥で第三者にけがをさせれば負う責任 → 保険の対象
  • 契約で「相手の損害をすべて負担する」と約束したことで増えた責任 → 対象外になりやすい

同じ事故でも、契約書の書き方ひとつで、保険で払える範囲が変わります。保険会社によって約款や引受けの考え方は異なりますが、この区別はどの保険会社でも出発点になります。

2. 理想は「保険の可否を分かったうえで、契約を結ぶ」こと

よくある流れ

  • 取引先から契約書が届く
  • サインの直前、またはサインした後に保険の相談
  • 補償できない約束が見つかる
  • 取引先に修正をお願いしにくい

理想の流れ

  • 商談の段階で保険の条件を確かめる
  • 保険で受けられる範囲を分かったうえで、契約書の文言を交渉する
  • 契約と保険を同じタイミングでそろえる

保険で受けられる範囲が先に分かっていれば、「この条項は保険で受けられないので、ここまでに限定してほしい」と、根拠を示して交渉できます。

3. 米国の取引先の契約書で、特に注意したいこと

米国の企業は、取引先(仕入れ先・納入業者)にリスクを移す書き方の契約書を、標準の書式として使っていることが多くあります。たとえば、次のような書き方です。

  • 相手方(米国法人)自身の過失による損害まで、自社が補償する
  • 損害の範囲に上限がなく、間接損害も含まれる
  • 保険の条件として、高い支払限度額、追加被保険者、他の保険より先に払う条件、求償権の放棄などを求める

こうした契約書をそのまま受け入れると、保険で受けられない部分が大きく残ります。契約書を受け取った時点で保険の可否を確かめ、受けられない部分は交渉で外すか限定する、という順番が大切です。

4. 引受けのときに保険会社が見る7つの箇所

① 補償条項(Indemnity/Hold Harmless)の広さ
相手方自身の過失まで自社が負う書き方(いわゆる広い型)か、自社の過失の範囲に限る書き方か。広い型は、保険で受けられないか、条件付きになることがあります。米国の州によっては、相手方の過失まで負わせる約束自体が無効とされる場合もあります。

② 保証(Warranty)の約束
「仕様どおりの性能を保証する」「不具合品は無償で交換する」といった約束は、製品そのものの不具合の手当てで、賠償責任保険の対象ではありません。保証期間や保証の範囲が広いほど、保険外の負担が大きくなります。

③ 損害の範囲と責任の上限(Limitation of Liability)
逸失利益や間接損害まで負うか、責任の上限額があるか。上限がない契約は、保険の限度額を超えた部分がそのまま自社の負担になります。

④ 違約金・遅延損害金(Liquidated Damages)
納期遅れや性能未達の違約金は、事故による損害ではないため、保険の対象外です。

⑤ 回収(リコール)や交換の費用の負担
不具合品の回収・交換費用を自社が負う約束は、PL保険では補償されません。必要ならリコール保険を別に検討します。

⑥ 求められている保険の条件
支払限度額、追加被保険者(Additional Insured)、他の保険より先に払う条件(Primary and Non-contributory)、求償権の放棄(Waiver of Subrogation)など。条件によっては、手配できる保険会社や保険料が変わります。

⑦ 準拠法・裁判管轄
どの国の法律で、どこの裁判所(または仲裁)で争うか。北米の裁判所が選ばれていれば、訴訟費用と賠償額の見込みが大きくなり、引受けの判断に影響します。

5. 保険会社の判断は、主に3つに分かれる

  • そのまま引き受ける:契約上の責任も含めて、補償できる範囲に収まっている
  • 条件を付けて引き受ける:一部の約束を補償の外にする、限度額や保険料を見直す
  • 引受けが難しい:補償の範囲が広すぎる、北米の訴訟リスクが高い など

契約書の文言を少し変えるだけで、「難しい」が「条件付きで可」に変わることもあります。

6. 引受けに時間がかかる理由

  • 契約書を一つずつ読み、どの約束が補償の範囲に入るかを判断する必要があります(定型の見積りでは済みません)。
  • 補償条項が広い、北米の裁判所が選ばれているなど、判断の重い条件ほど、保険会社の中で上の段階の審査に回ります。
  • 英文の契約書の場合、内容の確認や、取引先への質問のやり取りが発生します。
  • 海外の保険会社や再保険の手当てが必要になることがあります。

その結果、数日では答えが出ず、数週間かかることもあります。取引先は待ってくれないことが多く、保険の回答待ちで商談が止まる、というのがよくある失敗です。

7. 引受けを早く通すために、最初にそろえるもの

  • 契約書の案(全文。英文のままで構いません)と、取引先から求められている保険の条件
  • 取引の中身:売る製品・サービス、取引先の国、年間の取引額の見込み
  • 製品の用途と、事故が起きたときに想定される被害(人の体に触れる、火や電気を使う など)
  • これまでの事故やクレームの有無
  • 今入っている保険(国内PL、海外PL、CGLなど)と、その証券
  • 回答が必要な期限(取引先との契約予定日、出荷・出展の日)

これらが最初からそろっていると、保険会社とのやり取りの回数が減り、回答までの時間を縮められます。商談の早い段階、契約書の案が届いた時点でご相談いただくのが、いちばんの近道です。

8. 海外取引を進める順番

  1. 商談の段階で、取引先が求めそうな保険の条件を代理店に相談する。契約書の案が届いたら、サインする前に送る
  2. 保険で補償できる約束と、できない約束を分けてもらう
  3. 補償できない約束は、取引先と文言の調整を相談する(例:補償の範囲を「自社の過失による第三者の身体障害・財物損壊」に限る、責任の上限を入れる、間接損害を外す)
  4. 調整できない約束は、別の保険で埋めるか、自社で負うと決めたうえでサインする
  5. 契約に合わせた保険を手配し、求められた保険証明(COI)を出す

9. よくある質問

Q. 取引先の契約書の書式は変えられないと言われました。
A. 取引先の標準書式でも、補償の範囲や責任の上限は交渉の対象になることが少なくありません。変えられない場合でも、保険で補償できない部分を把握したうえでサインすることが大切です。

Q. 英文の契約書を全部読んでもらえますか?
A. 当センターでは、保険にかかわる条項(補償、保証、責任の上限、保険条件など)を拝見し、保険で補償できるかどうかを整理します。契約全体の法的な判断は、弁護士にご相談ください。

Q. 引受けの回答まで、どのくらいかかりますか?
A. 契約の内容や取引先の国によって変わります。補償条項が広い、北米向けなど判断の重い案件では、数週間かかることもあります。契約予定日から逆算して、早めにご相談ください。

Q. すでにサインした契約でも相談できますか?
A. できます。今の保険で補償されない約束がないかを確認し、足りない部分の手当てを考えます。

10. お問い合わせ

契約書の案や、取引先から求められている保険の条件をそのままお送りください。サインの前の段階でのご相談をおすすめします。

→ お問い合わせフォーム

海外ビジネス保険センター(GBIC東京)は、株式会社BEAMリスクマネージの東京の事業所です。英文CGL、海外PL保険、E&O、英文の保険証明書(COI)の発行まで、企業の賠償責任保険を専門にご相談を承っています。

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  • このブログの記事は「若宮大志」が書きました。

    若宮大志

    平素、ご契約者様には弊社にて保険契約を賜り、誠にありがとうございます。また取引業者様におかれましても、弊社の業務運営において日頃多大なご支援をいただき感謝を申し上げます。

     さて昨今の大きな問題として、自然災害の増加、資源・物価高による保険金の増大、保険金の不正請求等にもより、お客様にお支払いいただく保険料の上昇が顕著となった1年間でした。また損保大手4社による企業カルテル問題では、大きなところでは政策保有株の原則禁止と表明されたり、小さな部分では他社証券の取得や満期更改情報の取得を制限すると表明されたりしましたが、実質的に保険業界の企業体質はなかなか変わらないことが危惧されます。また保険会社の営業職員や保険代理店社員がお客様の保険料を不正に流用したり、店主が顧客と結託し、保険金詐欺に加担していた事件も明るみとなりました。

     国も企業も、身を正すことができない大人たちが跋扈することによって、業界が成長しないばかりか市場における競争力が失われ続けていると感じます。それは国内のみならまだしも、グローバルで相対的に力を失っているのが一番大きな弊害だと感じるものです。

     私たち株式会社BEAMリスクマネージは、政府による指導や保険会社の改革を待つのではなく、高いレベルのコンプライアンス基準による業務遂行を通じ、日本を、世界をリードする最先端の保険コンサルティング会社を目指してまいります。引き続きのご指導、ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。


    2024年12月吉日
    株式会社BEAMリスクマネージ
    代表取締役 若宮 大志

     

    プロフィール

    若宮 大志(わかみや たいし)
    株式会社BEAMリスクマネージ 代表取締役
    海外ビジネス保険センター(GBIC東京)責任者

    保険業界での実務経験は13年。うち8年を海外ビジネス保険に専従しています。

    AIG損害保険株式会社に在籍したのち、2020年5月に株式会社BEAMリスクマネージを設立。同年8月にAIG損害保険を退職し、独立しました。

    国内の法人保険を手がける中で、海外に事業を広げようとする中小企業が「英文の証券が用意できない」「主催者から届いた英文の要求が読み解けない」という理由で、商談や出展を止めてしまう場面に何度も立ち会いました。保険が事業の足かせになっている——この状況を変えたいと考え、海外ビジネス保険に専門特化しています。

    現在も、AIG損害保険をはじめChubb損害保険、スター保険会社など、海外リスクの引受に強い保険会社を取り扱っています。

    専門領域

    • 海外展示会保険(主催者指定要件への対応、英文付保証明書の発行)
    • 英文CGL・PL保険(海外での賠償責任)
    • 外航貨物海上保険(輸出入貨物の輸送中・保管中)
    • 貿易保険
    • 取引信用保険(海外売掛債権の未回収リスク)
    • 海外リコール保険
    • 海外拠点を含むサイバー保険
    • グローバル保険プログラム(海外子会社を含む保険の一元管理)

    取扱保険会社:AIG損害保険、Chubb損害保険、スター保険会社

    保有資格

    • 損害保険トータルプランナー(日本損害保険協会)
    • 貿易実務検定

    対応実績

    独立以来の累計で、次の実績があります。

    • 海外展開を支援した企業(累計) …… 約150社
    • 海外展示会の保険手配(累計) …… 約180件
    • 対応した国・地域 …… 22カ国

    海外展示会の保険手配では、主催者が求める補償項目・補償限度額・追加被保険者(Additional Insured)の記載要件を確認したうえで保険を設計し、英文付保証明書(COI)を発行しています。

    英語対応

    英文証券および英文付保証明書(COI)の発行に対応しています。

    主催者から届く英文の出展要項を読み解き、「Commercial General Liability USD 1,000,000」「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」といった要求条件が日本のどの保険に対応するのかを確認したうえで手配します。

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