興行中止保険(イベント中止保険)とは|主催者が知っておきたい補償の範囲と、入るタイミング

イベントの主催者は、開催日より前にほとんどの費用を払い終えています。会場の使用料、設営や機材の手配、登壇者や出演者への謝礼、広告、運営スタッフの人件費。こうした支出は、台風が来ても、主役の登壇者が来られなくなっても戻ってきません。

中止になったとき、この「払ったのに回収できない費用」を埋めるのが、興行中止保険(イベント中止保険)です。この記事では、何が補償され、何が補償されないのか、いつまでに入る必要があるのかを、主催者の立場から整理します。学会や国際会議、展示会を主催する方にも、そのまま当てはまる内容です。

要点は3つです。

  • 補償の基本は、中止で無駄になった費用。契約によっては、参加費やチケット代の収入も補償できる
  • 自然災害だけでなく、テロや出演者の不参加にも備えられる。主催者の都合や集客不振による中止は対象外
  • 申込みは支出が確定した時点で。台風が発生してからでは間に合わない

1. 興行中止保険とは

興行中止保険は、主催者の意思ではどうにもならない理由でイベントが中止・延期になったとき、主催者が被る経済的な損失を補償する保険です。保険会社によって「イベント中止保険」「催事取消し保険」などとも呼ばれます。

対象になるのは、コンサートやフェス、スポーツ大会、花火大会のような興行だけではありません。学術集会、国際会議、展示会、企業の周年行事など、お金をかけて準備する催し全般が対象になり得ます。

大きな特徴は、一件ごとに中身を決める「オーダーメイド」の保険だということです。屋内か屋外か、何日間の開催か、どんな理由の中止まで備えるかによって、補償の範囲も保険料も大きく変わります。自動車保険のように、決まった商品を選ぶものとは考えないほうがよいでしょう。

2. 補償されるもの

補償の中心は、中止によって無駄になった「すでに支出した費用」です。一般的には次のようなものが対象になります。

  • 会場の使用料、キャンセル料
  • 設営・装飾、音響・照明などの機材費
  • 登壇者・出演者への謝礼、渡航費や宿泊費
  • 広告宣伝費、印刷物の制作費
  • 運営スタッフや委託先への支払い

延期になった場合に、会場を取り直したり告知をやり直したりする「追加でかかる費用」を補償する契約もあります。

さらに、開催していれば得られたはずの収入を補償できる契約もあります。チケット代や参加費がこれにあたります。収入を対象にする場合は、過去の実績や予算など、その金額の根拠を示すことになります。費用だけに備えるか、収入まで備えるかは、最初に決めておきたい大事な点です。

3. 対象になる中止の理由

補償されるのは、主催者には防ぎようのない、偶然の出来事による中止です。代表的なものは次のとおりです。

  • 悪天候・自然災害:台風、大雨、暴風、大雪、落雷、地震。屋外のイベントでは、これが最大の備えどころです
  • テロ:テロやその脅威による中止も、補償の対象にできる契約があります
  • 出演者・登壇者の不参加:急病や事故で、主役となる人が来られなくなった場合
  • 会場の事故:火災や設備の故障で、会場が使えなくなった場合
  • 交通の途絶:計画運休や事故で、会場にたどり着けなくなった場合
  • 公的な要請:災害などで、行政から開催の中止を求められた場合

どこまでを対象にするかは契約ごとに異なります。たとえば出演者の不参加は、対象にする人を名前で指定し、健康状態の告知を求められるのが一般的です。自分のイベントで何が起きやすいかを先に洗い出しておくと、必要な補償が見えてきます。

4. 対象にならない中止

興行中止保険でいちばん誤解が多いのが、ここです。一般的に、次のような中止は補償されません。

  • 主催者の都合による中止:予算不足、準備の遅れ、内部の判断による取りやめ
  • 集客の不振:チケットや参加申込みが伸びず、開催を見送った場合
  • 感染症:新型コロナの拡大以降、感染症による中止は対象外にする契約が一般的になっています
  • 契約前から分かっていた事情:すでに発生していた台風や、体調を崩していた出演者など

少し天気が悪いだけで開催できたのに、主催者の判断で中止した場合も注意が必要です。契約で定めた基準(警報の発令、行政の要請など)に届いていなければ、補償されないことがあります。中止を決める前に、保険の窓口に相談するのが安全です。

5. 入るタイミング

興行中止保険は、開催の直前になるほど入りにくくなります。台風が発生してから、あるいは出演者が体調を崩してから申し込んでも、その理由による中止は補償されません。

目安は、開催日と会場が決まり、大きな支出が確定した時点です。申込みの締切を開催の何日前までと定めている保険会社もあります。また、一件ごとに審査があるため、見積りから契約までには時間がかかります。

見積りの際には、次のような情報を求められることが多いので、早めにまとめておくと話が早く進みます。

  • イベントの概要(名称、日程、会場、屋内か屋外か)
  • 予算の内訳と、支出が確定する時期
  • 見込みの参加者数と、チケットや参加費の収入
  • 主な出演者・登壇者(不参加に備える場合)
  • 過去の開催実績(毎年開催している場合)

6. 賠償責任保険とは別物

興行中止保険が備えるのは、主催者自身の損失です。来場者がケガをした、会場の設備を壊したといった、他人に対する賠償は補償されません。

こちらに備えるのは、主催者の賠償責任保険です。会場の契約で加入を求められることが多く、会場への賠償もあわせて備えられます。中止への備えと事故への備えは、別の保険として両方をそろえるのが基本です。

7. 学会・国際会議・展示会の主催者が気をつけたいこと

学会や国際会議は、開催の1~2年前から会場を押さえ、海外から基調講演者を招くことが多くあります。支出が早く確定し、中止の損失も大きくなりがちです。

  • 基調講演者の不参加:海外からの登壇者が来られないと、会議そのものが成り立たないことがあります。対象にするなら、人を指定して早めに手配します
  • 参加費の収入:収入の柱が参加費なら、費用だけでなく収入まで備えるかを検討します
  • 海外での開催:開催地の法律や会場の契約で、現地の保険への加入を求められる場合があります。日本で結ぶ保険だけで足りるか、早めに確かめておきます
  • 運営会社との役割分担:運営を委託している場合、どちらが保険を手配し、誰の損失を対象にするかを契約ではっきりさせておきます

展示会も同じです。大きな展示会は主催者の支出が大きく、出展者からの出展料を返す必要が出ることもあります。

8. まとめ

  • 興行中止保険は、中止で無駄になった費用を補償するのが基本。契約によっては、入るはずだった収入も補償できる
  • 自然災害だけでなく、テロや出演者の不参加なども対象にできる
  • 主催者の都合や集客の不振、感染症による中止は、一般的に対象外
  • 申込みは支出が確定した時点で。台風が発生してからでは間に合わない
  • 来場者への賠償は別の保険(賠償責任保険)で備える

海外ビジネス保険センター(GBIC東京)では、学会・国際会議・展示会など、イベントを主催する方のリスクのご相談をお受けしています。中止への備えも含めて、何に備えておくべきかを一緒に整理します。お気軽にご相談ください。

  • このブログの記事は「若宮大志」が書きました。

    若宮大志

    平素、ご契約者様には弊社にて保険契約を賜り、誠にありがとうございます。また取引業者様におかれましても、弊社の業務運営において日頃多大なご支援をいただき感謝を申し上げます。

     さて昨今の大きな問題として、自然災害の増加、資源・物価高による保険金の増大、保険金の不正請求等にもより、お客様にお支払いいただく保険料の上昇が顕著となった1年間でした。また損保大手4社による企業カルテル問題では、大きなところでは政策保有株の原則禁止と表明されたり、小さな部分では他社証券の取得や満期更改情報の取得を制限すると表明されたりしましたが、実質的に保険業界の企業体質はなかなか変わらないことが危惧されます。また保険会社の営業職員や保険代理店社員がお客様の保険料を不正に流用したり、店主が顧客と結託し、保険金詐欺に加担していた事件も明るみとなりました。

     国も企業も、身を正すことができない大人たちが跋扈することによって、業界が成長しないばかりか市場における競争力が失われ続けていると感じます。それは国内のみならまだしも、グローバルで相対的に力を失っているのが一番大きな弊害だと感じるものです。

     私たち株式会社BEAMリスクマネージは、政府による指導や保険会社の改革を待つのではなく、高いレベルのコンプライアンス基準による業務遂行を通じ、日本を、世界をリードする最先端の保険コンサルティング会社を目指してまいります。引き続きのご指導、ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。


    2024年12月吉日
    株式会社BEAMリスクマネージ
    代表取締役 若宮 大志

     

    プロフィール

    若宮 大志(わかみや たいし)
    株式会社BEAMリスクマネージ 代表取締役
    海外ビジネス保険センター(GBIC東京)責任者

    保険業界での実務経験は13年。うち8年を海外ビジネス保険に専従しています。

    AIG損害保険株式会社に在籍したのち、2020年5月に株式会社BEAMリスクマネージを設立。同年8月にAIG損害保険を退職し、独立しました。

    国内の法人保険を手がける中で、海外に事業を広げようとする中小企業が「英文の証券が用意できない」「主催者から届いた英文の要求が読み解けない」という理由で、商談や出展を止めてしまう場面に何度も立ち会いました。保険が事業の足かせになっている——この状況を変えたいと考え、海外ビジネス保険に専門特化しています。

    現在も、AIG損害保険をはじめChubb損害保険、スター保険会社など、海外リスクの引受に強い保険会社を取り扱っています。

    専門領域

    • 海外展示会保険(主催者指定要件への対応、英文付保証明書の発行)
    • 英文CGL・PL保険(海外での賠償責任)
    • 外航貨物海上保険(輸出入貨物の輸送中・保管中)
    • 貿易保険
    • 取引信用保険(海外売掛債権の未回収リスク)
    • 海外リコール保険
    • 海外拠点を含むサイバー保険
    • グローバル保険プログラム(海外子会社を含む保険の一元管理)

    取扱保険会社:AIG損害保険、Chubb損害保険、スター保険会社

    保有資格

    • 損害保険トータルプランナー(日本損害保険協会)
    • 貿易実務検定

    対応実績

    独立以来の累計で、次の実績があります。

    • 海外展開を支援した企業(累計) …… 約150社
    • 海外展示会の保険手配(累計) …… 約180件
    • 対応した国・地域 …… 22カ国

    海外展示会の保険手配では、主催者が求める補償項目・補償限度額・追加被保険者(Additional Insured)の記載要件を確認したうえで保険を設計し、英文付保証明書(COI)を発行しています。

    英語対応

    英文証券および英文付保証明書(COI)の発行に対応しています。

    主催者から届く英文の出展要項を読み解き、「Commercial General Liability USD 1,000,000」「Additional Insured」「Waiver of Subrogation」といった要求条件が日本のどの保険に対応するのかを確認したうえで手配します。

    出展要項をそのままお送りいただければ、こちらで内容を確認します。

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