防御義務(Duty to Defend)とは|英文CGLと日本の賠償責任保険の違い
海外の取引先や消費者から訴えられたとき、最初に届くのは賠償金の請求書ではありません。訴状です。そして、判決や和解が出るずっと前から、弁護士費用がかかり始めます。
米国の英文CGL(Commercial General Liability)には、この場面で保険会社が被保険者の代わりに裁判を引き受ける「防御義務(Duty to Defend)」という考え方があります。日本の賠償責任保険にはない仕組みで、海外で賠償責任保険を選ぶときに最も差が出る点のひとつです。
この記事では、防御義務とは何か、日本の賠償責任保険とどう違うのか、弁護士費用が賠償の枠とは別に支払われる「外枠払い」の仕組み、そして防御がいつ終わるのかを順に整理します。
目次
- 1. 防御義務(Duty to Defend)とは
- 2. 日本の賠償責任保険は「防御の費用を後から払う」保険
- 3. 防御義務は、保険金を支払う義務より広い
- 4. 弁護士費用は賠償の枠の外か、内か
- 5. 防御義務はいつ終わるのか
- 6. 保険会社が防御を引き受けるときに起きること
- 7. 契約前に確かめたい3つの点
- 8. よくあるご質問
- 9. お問い合わせ
- 10. 関連ページ
1. 防御義務(Duty to Defend)とは
米国で広く使われている標準的なCGLの約款(ISOの様式)では、補償の約束の中に次の一文があります。
We will have the right and duty to defend the insured against any "suit" seeking those damages.
(保険会社は、その損害賠償を求める被保険者に対する訴訟について、被保険者を防御する権利と義務を負います)
つまり保険会社は、補償の対象となる損害賠償を求める訴訟を起こされた被保険者のために、弁護士を手配し、その費用を負担して裁判に対応します。これが防御義務です。
「義務」であると同時に「権利」でもある点が大切です。保険会社は自ら防御を指揮し、事故を調査し、必要と判断すれば和解することができます。被保険者が自分で弁護士を探して費用を立て替える形とは、出発点から違います。
2. 日本の賠償責任保険は「防御の費用を後から払う」保険
日本の損害保険会社の一般的な賠償責任保険は、考え方が異なります。
その約款では、補償する損害の中に「争訟費用」があり、たとえば次のように定められています。
- 争訟費用は、損害賠償責任に関する争訟について、被保険者が保険会社の書面による同意を得て支出した費用
- この保険では、保険会社が被保険者に代わって被害者と示談交渉を行う「示談交渉サービス」を行わない
- 保険会社は、必要と認めた場合は、被保険者に代わって自己の費用で損害賠償請求の解決に当たることができる
防御するのは、あくまで被保険者自身です。保険会社は同意した範囲の費用を支払い、必要があれば関与できる、という立場です。防御を引き受ける義務を負っているわけではありません。
国内の事故であれば、この形でも大きな問題にならないことが多いでしょう。しかし米国の訴訟では、弁護士の選任、証拠開示(ディスカバリー)への対応、陪審を前提とした進め方など、手続きそのものが重く、長くなりがちです。防御を誰が担うのかは、実務の負担に直結します。
3. 防御義務は、保険金を支払う義務より広い
米国では、防御義務は「保険金を支払う義務(Duty to Indemnify)」より広いと考えられています。
保険金を支払う義務は、実際に賠償責任があると決まり、それが補償の対象であるときに生じます。これに対して防御義務は、訴状に書かれた主張が補償の対象になりうるかどうかで判断されるのが一般的です。主張の真偽は問いません。訴えが言いがかりに近いものであっても、補償の対象になりうる主張が含まれていれば、保険会社は防御を引き受けることになります。
被保険者から見ると、これが防御義務の最大の価値です。「最後は勝てる訴訟」でも、勝つまでの弁護士費用はかかります。その費用と手間を保険会社が引き受けます。
一方で、限界もあります。約款は同時に、補償の対象とならない損害賠償を求める訴訟については防御義務を負わない、とも定めています。たとえば、自社の製品そのものの修理費用や、契約で引き受けた責任のうち補償の対象外のものだけを求める訴えでは、防御は受けられません。
※ 防御義務の範囲の判断基準は、州によって異なります。
4. 弁護士費用は賠償の枠の外か、内か
防御にかかる費用が、賠償金に使える枠(支払限度額)を削るかどうかは、保険を選ぶうえで大きな違いになります。
英文CGL(ISOの様式)の場合
標準的な様式では、保険会社が負担する防御の費用は「追加支払(Supplementary Payments)」として扱われ、約款に「これらの支払いは支払限度額を減らさない」と明記されています。これが、いわゆる「外枠払い」です。
たとえば、1事故あたりの支払限度額が100万ドルで、訴訟の防御に30万ドルかかったとします。外枠払いであれば、賠償金に使える枠は100万ドルのまま残ります。
日本の一般的な賠償責任保険の場合
先ほどの約款では、争訟費用は「その全額」を支払うと定められています。賠償金の支払限度額とは別に支払われるので、ここまでは外枠払いと同じです。
違いが出るのは、損害賠償金が支払限度額を超えたときです。この場合、争訟費用は次の割合でしか支払われません。
保険金の額 = 争訟費用の額 × 支払限度額 ÷ 法律上の損害賠償金の額
たとえば、支払限度額1億円に対して損害賠償金が2億円、争訟費用が2,000万円かかった場合、支払われる争訟費用は1,000万円です。
まとめると、日本の一般的な約款は「賠償が限度額に収まるうちは争訟費用も全額、超えると按分」。英文CGLの標準様式は「限度額が判決や和解の支払いで使い切られるまでは、防御の費用を限度額とは別に負担する」。訴訟が大きくなるほど、この差が効いてきます。
ただし、約款と設定の仕方によって変わります
外枠払いかどうかは、保険の種類だけで決まるものではありません。同じCGLでも、特約や保険会社独自の約款によって、防御費用が支払限度額の中に含まれる設定になっていることがあります。これを「争訟費用の内枠払い」といいます(英文の契約書では「defense within limits」と書かれることがあります)。内枠払いの場合、弁護士費用がかさむほど、賠償金に使える枠が減っていきます。
「CGLだから外枠」と決めつけず、実際の証券と約款で確かめることが必要です。当社では、ご契約中の証券やお見積りの内容から、この点を確認しています。
5. 防御義務はいつ終わるのか
防御義務には終わりがあります。標準的な様式では、支払限度額が判決や和解の支払いに使い切られた時点で、保険会社の防御の権利と義務は終わると定められています。
外枠払いであっても、防御の費用が青天井で支払われ続けるわけではありません。複数の訴訟を抱えた場合や、和解金が大きくなった場合には、限度額が尽きた時点で、その後の防御は被保険者自身が担うことになります。
支払限度額は「賠償金をいくらまで払えるか」だけでなく、「防御をいつまで保険会社に任せられるか」も左右します。取引先から求められた最低額に合わせるだけでなく、事業の規模と訴訟の起こりやすさから決めることをおすすめします。
6. 保険会社が防御を引き受けるときに起きること
防御義務がある保険では、次のようなことが起こります。事前に知っておくと、いざというときに慌てずに済みます。
- 弁護士は、原則として保険会社が選びます。防御を指揮するのは保険会社です
- 保険会社は、自らの判断で事故を調査し、和解することができます
- 補償の対象かどうかがはっきりしないとき、保険会社が「権利留保(Reservation of Rights)」を付けて防御を始めることがあります。防御はするが、後で補償の対象外と判断した場合には保険金を支払わない権利を留保する、という通知です。この通知を受けたら、内容をよく確認し、必要に応じて専門家に相談してください
- 被保険者には、訴状や請求書を受け取ったらすぐに保険会社へ知らせる義務があります。連絡が遅れると、防御の開始が遅れ、補償の判断に影響することがあります
7. 契約前に確かめたい3つの点
海外向けの賠償責任保険を選ぶとき、補償の範囲や保険料と並んで、次の3点を確かめてください。
① 防御義務があるか。保険会社が防御を引き受けるのか、それとも被保険者が防御し費用を後から支払う形なのか
② 争訟費用は外枠払いか、内枠払いか。内枠払いの場合、弁護士費用を見込んだうえで、どの程度の限度額が必要か
③ 支払限度額はいくらか。賠償金だけでなく、防御がいつまで続くかにも関わります
海外の取引先や展示会の主催者から保険を求められる場面では、限度額や追加被保険者の条件ばかりに目が向きがちです。しかし、実際に訴えられたときに役に立つかどうかは、この3点で大きく変わります。
8. よくあるご質問
Q. 日本の保険会社の賠償責任保険に「海外」の補償を付ければ、同じことになりますか?
A. 補償される地域が広がっても、防御の仕組みが英文CGLと同じになるとは限りません。争訟費用が外枠払いか内枠払いか、限度額を超えたときにどう支払われるかは、約款と設定によって異なります。証券と約款で確認が必要です。
Q. 訴えが根拠のないものでも、保険会社は防御してくれますか?
A. 防御義務がある保険では、訴状の主張が補償の対象になりうるものであれば、主張の真偽にかかわらず防御を引き受けるのが一般的です。ただし、補償の対象外の請求だけを求める訴えは対象になりません。
Q. 自分で選んだ弁護士に依頼できますか?
A. 防御義務がある保険では、原則として保険会社が弁護士を選び、防御を指揮します。自社で弁護士を選びたい事情がある場合は、事故の前に、保険会社の対応を確認しておくことをおすすめします。
9. お問い合わせ
海外で使う賠償責任保険の内容を確かめたい方、取引先から英文CGLを求められている方は、お気軽にご相談ください。ご契約中の証券や、取引先の契約書・主催者の要求文は、訳さずにそのままお送りいただいて構いません。
海外ビジネス保険センター(GBIC東京)
メール:gbic@beam-rm.jp
電話:03-4218-6981
検討段階でしたら、お名前とご連絡先だけで結構です。具体的なお見積りをお急ぎの場合は、必要事項をまとめて入力いただける専用フォームをご用意しています。
10. 関連ページ
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※ この記事は補償の考え方を一般的に説明したものです。実際の補償内容は、保険会社の約款、特約、ご契約の条件によって異なります。詳しくは各保険会社の約款・パンフレット等をご確認いただくか、当社までお問い合わせください。
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