AIコンサルティング・AI開発の保険|海外で問われる賠償リスク

AIの導入支援やコンサルティング、AIを使ったシステムの開発を請け負っている。

海外のクライアントとの契約書に、保険に加入するようにと書かれていた。あるいは、納品したものの出力をめぐって相手方から責任を問われた。

この分野は、引き渡しているものが「モノ」ではなく「仕事」であるため、賠償と保険が結びつきにくいところがあります。加えて、AIの出力は確率的で、どこまでが受託者の責任なのかが契約書に書き込まれていないことも少なくありません。

当社にお寄せいただくご相談でも、アプリ開発と並んで多い分野です。この記事では、実際に問題になりやすい場面と、契約書に書かれる保険条項の読み方を整理します。

1. AIの仕事で、賠償を求められるのはどんな場面か

まず、実際に問題になりやすい場面を並べます。いずれも、AIそのものが壊れたという話ではありません。相手方の事業に損失が出て、その原因が当社の仕事にあるとされるという形です。

提案した構成が、想定した性能に届かなかった
精度、処理速度、対応言語、運用コスト。提案の前提の置き方に誤りがあり、相手方の投資が回収できなかった。

出力の誤りをもとに、相手方が判断した
導入したシステムの出力に誤りがあり、それを前提に相手方が意思決定を行って損失が生じた。

学習や検証に使ったデータの権利
用いたデータや生成された出力について、第三者から権利を主張された。

預かったデータの取り扱い
相手方から受け取ったデータや、その中に含まれる個人情報の管理に問題があった。

規制への適合
提供先の国や地域で求められる規制への適合が不十分だと指摘された。

これらは、製品の欠陥に備える保険(生産物賠償責任=PL)では対象になりません。役務の過誤に対応するのは業務過誤賠償責任保険(E&O)の領域です。

2. AIの案件が、通常のシステム開発と違うところ

受託開発であれば、仕様書に書かれたとおりに動くかどうかで判断できます。AIの案件では、そこが同じようにはいきません。

出力が確率的である
同じ入力でも出力が揺れます。「正しく動く」の定義を契約書に書き込んでいないと、どこからが不履行なのかが後から争いになります。

性能が、こちらの手の届かないところに依存する
基盤となるモデルの仕様変更や提供終了、学習データの質。受託者が制御できない要素が、成果物の性能を左右します。

助言と実装の境目が曖昧になりやすい
「相談に乗っただけ」のつもりが、相手方からは設計を委ねたと受け取られていることがあります。

権利関係が新しい
学習データ、生成された出力、それぞれの権利の扱いは、国によっても契約によっても異なります。

賠償の請求は、この曖昧なところから起きます。保険を考える前に、契約書で何をどこまで約束しているかを確認しておく必要があるのは、そのためです。

3. まず決めるのは「どこまで引き受けているか」

保険の設計は、業務の範囲で決まります。AIの案件は、おおむね次の3層に分かれます。

引き受けている内容 問われやすい責任
助言 戦略立案、技術選定の助言、PoCの評価 助言の内容そのものの誤り
実装 設計、開発、既存システムへの組み込み 成果物の不具合、納期、仕様との相違
運用 運用受託、監視、再学習、保守 停止、データの毀損、性能の劣化

1社が3層すべてを引き受けていることもあれば、助言だけのこともあります。助言だけだから責任は軽い、とは限りません。助言にもとづいて相手方が投資を決めていれば、損失の規模は実装よりも大きくなり得ます。

ご相談の際は、この3層のどこまでを引き受けているかを最初にお知らせください。ここが決まらないと、必要な保険の形が決まりません。

4. 海外の契約書に書かれる保険条項の読み方

海外のクライアントとの契約書には、保険の付保義務(Insurance Requirements)が置かれていることがあります。AI・IT分野で見られる名称は、次のとおりです。

契約書の記載 主に対象としているもの
Commercial General Liability(CGL) 事業活動にともなう対人・対物の賠償責任
Professional Liability / Errors and Omissions(E&O) 役務の過誤による、相手方の経済的な損失
Technology Errors and Omissions 上記のうち、技術サービスに特化したもの
Cyber Liability 情報の漏えい、システムへの侵入にともなう損害

注意していただきたいのは、次の2点です。

並記されていたら、それぞれ別に必要です。CGLとE&Oが並んで書かれている場合、CGLに加入しているだけでは条項を満たしません。CGLは対人・対物の賠償責任が中心で、専門的な役務の過誤による経済的損失は対象としていないのが一般的だからです。

限度額と付随条件まで指定されていることがあります。限度額、保険期間、証明書の提出方法、追加被保険者の指定。加入していること自体ではなく、書かれた条件どおりに入っていることを書類で示せるかが問われます。

CGLについては英文CGL保険|補償の範囲と求められる条件で、提出を求められる証明書については英文付保証明書(COI)発行でご説明しています。

5. 「いつの業務が対象になるか」を必ず確認する

業務過誤賠償責任の保険は、損害賠償の請求がなされた時点を基準として設計されていることが一般的です。事故が起きた時点ではありません。

AIの案件では、ここが実務上とても効いてきます。導入したシステムの出力に問題があったことが分かるまでに、時間が空くことがあるためです。納品から1年、2年と経ってから請求が来ることは珍しくありません。

確認していただきたいのは次の2点です。

・過去に行った業務まで遡って対象とするか(遡及日の設定)
・契約を終えたあとに来た請求をどう扱うか

いずれも契約ごとの条件によります。過去の案件についてご不安がある場合は、その旨をお知らせください。

6. 学習データと、生成された出力の権利

AI特有の論点として、権利関係があります。

学習・検証に使ったデータ
どこから調達したものか。利用許諾の範囲に、当該用途が含まれているか。相手方から預かったデータを、別の案件の学習に使っていないか。

生成された出力
出力が第三者の権利を侵害しているとの主張を受ける可能性があります。この種の請求は、保険の世界では知的財産や媒体に関する責任として扱われることが多く、業務過誤の補償とは別枠になっている場合があります。

契約書に権利の帰属や補償(Indemnification)の条項が置かれていれば、そこも一緒にご確認ください。契約で自社が負うと約束した責任の範囲と、保険で手当てできる範囲は、必ずしも一致しません。そのずれを先に知っておくことが、実務上いちばん重要です。

7. 個人情報・機密情報と、規制への適合

預かったデータの管理
クライアントから受け取ったデータに個人情報や営業秘密が含まれている場合、その管理は契約上の義務になっていることがほとんどです。漏えいや滅失にともなう損害は、業務過誤とは別に、情報セキュリティに関する保険(Cyber Liability)の領域として扱われることがあります。契約書に両方の付保義務が書かれていれば、両方が必要です。

規制への適合
提供先の国や地域によっては、AIの利用そのものに関する規制や、個人データの越境移転に関する規制があります。契約書に「適用される法令を遵守すること」と書かれていれば、その遵守は自社の義務です。

規制の内容そのものは法律の専門家の領域です。ただし、その義務を負ったうえで、賠償を求められたときにどう備えるかは保険の話になります。契約書の該当条項をお送りいただければ、そこから整理します。

8. よくあるご質問

Q. AIの案件でも保険を引き受けてもらえますか

A. 業務の内容によります。AIに関わる業務は新しく、会社ごとに中身が大きく異なるため、助言までか、実装までか、運用までかを具体的にお伺いしたうえでの検討になります。お引き受けできるかどうかを含めてご案内します。

Q. 国内向けにしかサービスを出していませんが、関係ありますか

A. この記事は海外案件を中心にご説明していますが、責任の考え方そのものは国内でも同じです。国内では求められなかった保険が海外の取引で初めて条件として出てくる、という順番になりやすいのが実情です。

Q. 基盤モデルの提供元の仕様変更で性能が落ちた場合はどうなりますか

A. 自社に過誤があったかどうかが起点になります。あわせて、契約書でどこまでの性能を約束しているかが判断を左右します。契約条項をご確認ください。

Q. サイバー保険に入っています。それで足りますか

A. 対象としている領域が違います。情報の漏えいやシステムへの侵入に備えるものと、役務の過誤による相手方の経済的損失に備えるものは別です。契約書に両方の付保義務が書かれていれば、両方が必要です。

Q. 保険料はどのくらいになりますか

A. 業務の内容、対象となる国、限度額、取引の規模によって変わります。一律の目安をお示しすることが難しいため、条件をお知らせいただいたうえでご案内しています。

9. ご相談の際にお知らせいただきたいこと

次の5点をお知らせいただければ、こちらで整理してご案内します。

・引き受けている範囲(助言まで/実装まで/運用まで)
・提供しているサービスの具体的な内容
・クライアントの所在する国や地域
・取引の規模(1件あたりの契約金額の目安)
・契約書に保険の条項がある場合は、その条項

契約書の条項は、日本語に訳したり、関係がありそうな部分だけを抜き出したりせず、そのままお送りください。抜き出す段階で判断が必要になってしまうためです。PDFでもスクリーンショットでも構いません。

当社は海外の賠償責任保険を主に取り扱っており、2024年からは海外案件で年間100件を超えるご相談をいただいています。お引き受けできるかどうかは、業務の内容と契約条件を確認したうえでのご案内となります。

10. お問い合わせ

海外ビジネス保険センター(GBIC東京)
Email:gbic@beam-rm.jp

お急ぎの場合は、お電話でもご相談いただけます。

【お見積りのご依頼はこちら】

11. 関連ページ

業務過誤賠償責任保険(E&O)|アプリ開発・AIコンサルの海外賠償リスク
英文CGL保険|補償の範囲と求められる条件
英文付保証明書(COI)発行|主催者要件の読み解きと提出・差し戻し対応
海外展示会保険|英文付保証明書(COI)発行

※この記事は、賠償責任保険の考え方の概要をご説明したものです。実際に補償される範囲は、ご契約いただく保険会社の約款および証券の記載によります。個別の条件については、お問い合わせの際にご確認ください。